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言葉には「文化的な意味」もある

 英語で悩みや相談事を話していると、不思議に感じられることがある。韓国語で表現しようとすると複雑でむずかしくなってしまう内容のことでも、英語を使うと、じつに単純に伝えられるケースがあることである。ときには結論さえすぐに導き出せてしまう。これはいったいどういうことなのだろう。

 

 まず、その人の英語の水準が話の内容を十分に表現できるほど高くない場合かおる。たとえば、わが国の政治経済が停滞している要因を分析する場合、韓国語でなら歴史的、社会的な要因などを加えて多角的に分析することも可能だが、それを英語でやるとなると、おもにボキャブラリーの不足から、せいぜい「官僚主義のせいで」とか「権威主義がまだ残っているので」といった、単純な表現しかできないことが多い。

 したがって、その解決策も「社会の自律性を高め、民主主義的なシステムに変えること

が急務」いうことになり、そのためには「既存の幹部たちの変化は期待できないので、新

しい人材を大胆に登用することだ」という結論になる。じつに明快ではあるが、あまりに

正論、もしくは総論すぎて、はっきりいって、現実的な対策とはほど遠い(アメリカ人な

ら「オー、スマート」と皮肉交じりに感嘆してくれるかもしれないが)。

 

 また、言語的には同じ意味をもつ言葉であっても、それぞれの文化や社会の中で異なった解釈をされる場合が非常に多い。たとえば「官僚主義」や「権威主義」といった言葉は英語圏にも存在するもののもはや衰退の一途をたどっている過去の遺物というニュアンスがあるし、人々もそのことを前提に言葉を使っている。

 

 ところが韓国では違う。韓国語で表現されるこの二つの言葉は、いまでも「ほとんど越えることのできない巨大な障壁」といった意味をもつ。それで、「それらは早急に克服すべき対象だが、なんとも層が厚く膨大なものなので、抵抗する勢力も大きく、結局、改革は尻すぼみになることが多い」という説明も必要になってくる。これを英語でいうとなると、豊富な語彙と複雑な文章を使いこなさなくてはならない。こういうケースがじつに多いのである。

 

 だが、英語を正しく学ばなければならない理由もまさにここにある。言葉はつねに言語的意味のほかに、その文化圏の中だけで通用する固有の意味をもっている。いわば社会的・文化的意味である。韓国語では「大統領」はただ「最高位職の公務員のポスト」を意味するだけだが、英語の「president」には「大統領」「議長」「ホテルの名称」「高級自動車の名称」といった言語的意味のほかに、「もっとも権威あるもの、神聖なるもの」という社会的意味もある。

 

 そこでアメリカ人といえども、「あの大統領のやつはさ、あのときああしたけど……」などと、ぞんざいな口調で呼び捨てにしたりする例は少ない。不敬な気持ちになるからであり、だから彼らは、presidentという言葉自体もみだりには使わないのである。

 

 こういう例は非常に多い。したがって英語を英語圏の文化といっしょに学ぶことがきわめて大切になってくるのである。そうでないと、英語を韓国語の文化圏に合わせて使うという奇妙な事態におちいってしまう。すなわち、言葉のもつ社会的・文化的意味をまったく無視して英語を話すことになり、それは英語圏の人には、たいへん珍妙で不思議な英語に聞こえるのである。

 

 たとえば、「~しましょう」というとき、アメリカ人はよく「whay dont'you ~}とい

う表現を使う。否定形の構文なので、韓国人はこれを「なぜ、おまえは~しないのか」と

理解して、「おれはやらないといった覚えはないぞ」などと答えてしまう場合がある。そ

うかと思うと、アメリカではガソリンスタンドではなく「gas station」で車に燃料を入れるのを見て、「ああ、アメリカではLPガス自動車が大部分なんだ」と思ってしまうケース。こうした滑稽さは、要するに英語を韓国語に置き換えながら学んだ結果なのである。

 

 私自身にもこんな経験がある。ある国際学術大会に出席したときのこと、壇上で韓国の学者が発表中なのにもかかわらず、外国の学者たちは顔をしかめて同時通訳のイヤホンを耳からはずしてしまっている。休憩時間に、その理由をそれとなく聞いてみたところ、通訳の内容がヘンでまともに聞いていられないのだという。イヤホンを耳にしてみて、その理由がわかった。韓国人の同時通訳者は発表の内容にかかわらず、あらかじめ用意された英語の訳文を読んでいたのだ。

 

 たとえば、「私の考えでは、この問題を総体的にみないで、断片的に扱うところに誤りがあったようです」と、発表者は話しているのに、通訳は「誤りの原因は問題に対する総体的な分析の代わりに、断片的な考察を用いたところにあると思われる」というぐあいにである。これは単に英語を韓国語に置き換えているから起こるのだが、こんなややこしい表現を聞かされたら、頭が痛くなることもあるだろう。それが英語のプロであるはずの通訳者のしわざなのだから、英語を韓国語に置き換えながら学ぶことの弊害は予想以卜に大きいといわなくてはならない。

『英語は絶対、勉強するな』チョン チャンヨン著 (定価1300円)より 

 

英語が「外国語」から「第二母国語」になる

 この第四ステップを実践するうちに、英語が「自己発展」する現象が起こる。目に入り、耳に聞こえるすべての英語が、頭の中に用意された「英語の部屋」に自動的に入力され、自動分類されて、貯蔵されるのである。その後、あなたの英語力は自分でもびっくりするほどの加速で伸びていく。

 

 この段階になるとCNNのニュースを聞けば時事英語に強くなるし、法廷映画やドラマを見れば、論理的で分析型の英語により精通するだろう。小説を一冊読み終えればグンと文学的表現力が増し、エッセイを読めばアメリカ人の心理がさらに理解できるようになるだろう。このように、第四ステップはいわば英語に間する総体的なデータベースを構築する時期だ。したがって情報が多様であればあるほど、より体系的なデータベースが構築できることになる。

 

 だから可能であれば、第五ステップに移ろ前に、アメリカのテレビの一口分の放送番組を手に入れて、それを通して見てみるといい。ニュース、ドラマ、CM、対談番組、映画、お笑い番組など、一般のアメリカ人がふだん見ている番組に接することができるため、映画では十分に理解できない、彼らのより日常的で詳細な生活や心理が追経験できる。とりわけCMやお笑い番組は役に立つ。

 

 CMには、見る人の心を短時間で効果的にとらえる工夫が凝縮されているため、喜怒哀楽などアメリカ人のアクチュアルな感情の機微を推量するのには格好の材料となる。また家族ドラマ番組は彼らの日常をカリカチュアしたものが多いので、家族の生活ぶりなどをきわめてわかりやすい形で垣間見ることができる。

 

 こうして第四ステップを十分にこなせば、習得した「英語に映像がついてくる」現象が現れてくる。たとえば、あなたが「I'm sorry」とあやまるとき、相手の表情や彼がいわんとする言葉までが、おのずとあなたの脳裏に浮かぶようになり、i love youというときには胸の高まりを覚えるようになる。腹が立ったら思わずと叫んだり、foolishと悪態を吐き出すようにさえなる。いわば英語の音声と文章に自分の感情が接ぎ木されるわけだ。

 

 この情緒と言語の一致は、一般には「母国語」以外には起こらない現象だが、私のノウハウでは、それが外国語でも起こるようになる。そのときから、自分の囗から出る英語に十分な自信が生まれ、外国語を母国語のように流暢にしゃべらている自分にそそがれる他人の驚きに満ちた視線、それをかえって奇異に感じるようにもなるのだ。「おれの顔に何かついているのか?」。そして、ああ、英語のせいだと気がつく  こうなると、英語は。外国五回から。第二母国語”になるのである。

 

 もちろん、そうなっても意味のわからない単語はある。しかし英語が外国語であったときには、条件反射的にとにかくその単語の意味を知りたくなったのに、第二母国語になりつつある段階では、はじめて耳にする単語であっても、自分なりに意味を類推して先へ進むことができるようになる。そして全体の文意から推し量って、「その単語はこういう意味なんじやないか?」と。正しい見当”をつけられるようになるのだ。

 

 英語が外国語のレベルの人は、文章の一つひとつを神経を使って聞こうとし、話そうとするのですぐに疲れてしまう。それで話し相手と早く別れたいと思ったりもする。ところが、英語が第二母国語と化した人は話に夢中になって時間のたつのも忘れてしまう。二次会、三次会もどんどん行こうという勢いである。アメリカ人と冗談や相談事、人生の悩みなどまでが無理なく打ち明け合えるからである。

 

『英語は絶対、勉強するな』チョン チャンヨン著 (定価1300円)より 

 

英語でリアルな感情表現もできる段階

「その感情移入を、今回、映画で英語を学びながら何度か経験しました。男性が話すときはそうでもないのですが、ヒロインが話しているある瞬間に、『あ、これはまさに私がいいたいことだ』と、ふと感じることがあったんです」

 

 登場人物への感情移入-‐-英語であれ、ドイツ語であれ、あなたの語学力かおる程度の水準まで達すると、その現象が起こる。

 

 たとえば、映画の中にこんなシーンがあったとしよう。洗練されたオフィスで-窓の外にはゴールデンデイトブリッジが眺望できるI-二人のビジネスマンがしきりに議論を交わしている。一人はきちんとした身なりの、青い瞳が魅力的な四十代のアメリカ人。もう一人はやはりきちんとスーツを着こなしたアジア系の三十代くらいの男性。二人の議論はまったくよどみがなく、アジア系男性の囗からも、アメリカ人にまったく劣らない滑らかで格調ある英語がすらすらと流れ出てくる……。

 

 それこそハリウッド映画のワンシーンのようだが、第四ステップにおいて、ビデオ映画をたくさん見れば見るほど、こういう場面への感情移入が自然にできるようになってくるのだ。そこにあなたが実際に居合わせているように、あるいは、そのアジア系の男性がまるであなた自身であるかのように、あなたの口からも、映画の登場人物と変わらないレベルの英語が自在に出てくるようになる。

 

 そして彼が笑えば、あなたも楽しい気持ちになり、彼が腹を立てれば、思わず「くそ、なんてことだ」とか「バカバカしい」といっか英語を口走っていたりもする。あるいは、ある言葉や表現を聞くと、それにともなう表情やしぐさまでがすぐにあなたの頭に浮かぶようになる。いわば見ている映像に合わせて、それまでに習得した英語が自然にあふれでてくるのだ。これが音や言葉と映像の一致、または感情と言語の一致現象である。

 

 この感情移入の段階に達すると、意識しないうちに、本場の巻き舌風の発音で、いかにもアメリカ人風足肩をすくめてしゃべったり、彼らと同じような表情をこしらえたりする自分に気づくはずである。そして、そのことが自分で不自然には感じられなくなる。それだけあなたの英語からぎごちなさが消えて、本場のそれに近づいたからである。つまり、英語が第二の母国語としてあなたの中に定着しはじめているのである。

 

 「つまり、『頭で考えて舌でしゃべる』ときの、自分の使う英語に自分白身が慣れていないような、恥ずかしくてぎごちない感じ、それがなくなったときに感情移入が起こりはじめるんだ。キミはもうそのレベルになっただろう」

 

 「いいえ、まだ少し慣れていない感じがあります。ときどきニュースや映画の英語が故郷の言葉のように親しみ深く感じられるときもあるんですけど。もっと映画を見なくてはいけませんね」

 

 「あと一、二本見れば、ぎごちなさも消えるだろう。それと、書き取ったセリフを読むときは、登場人物になりきって感情をこめて読むようにね」

 

 「あ、そうか。私、それをおろそかにしてました。次からは、動きを入れてやってみようかな。ご存じでしょう・ ひとり芝居でよくやる、セリフに従って、いろいろな人の役をやるやり方を」

 

 うん、それはいいね。より現実感が出るだろう。そのとき、役柄を変えてやってみたあとで、もう一度そのビデオを見るようにするといいよ。すると、演技しながらぎごちなく感じたり、おかしいなと思った部分がすぐわかるようになる。それをチェックしたあと、もう一度演技してみる。それを三回もくり返せば、その映画に出てくる英語はそっくり自分のものになるはずだよ」

 

 「わかりました。おもしろそうですね。だれか相手加いるといいんだけど、いっしょに演技する人が」

 

 「私かやろうか? 言葉だけではなく、体の演技つきという条件で」

 

 「先生、いやだあ。キスシーンもということですか?」

 

 「冗談はともかく、この第四ステップで、映画をできるだけたくさん見ておいたほうがいい。あと三本くらい見ておこう。四、五日もあれば一本を見終えることができるだろう。キミならもう全部理解できるはずだから書き取りはもちろんやる必要はない」

 

 「わかりました。そのころ、またうかがいます」

『英語は絶対、勉強するな』チョン チャンヨン著 (定価1300円)より 

マイクロRNAは骨と軟骨の形成を調節

概要
低分子クラスの非コード1本鎖RNAであるマイクロRNA(miRNA)は、標的遺伝子の特定配列に結合して転写後の遺伝子発現を調節するため、生物の発生と疾患発現の重要な調節因子として認識されている。また、miRNAの中には骨芽細胞や破骨細胞、または軟骨細胞の増殖と分化を調節し、最終的に代謝と骨形成に影響を及ぼすものがあるため、代謝性骨疾患と骨損傷の臨床治療における遺伝子療法は、その潜在的な標的がmiRNAによって明らかになると期待されている。本稿では特に骨および軟骨形成のmiRNA介在制御メカニズムに重点を置き、骨生物学分野のmiRNA制御に関する最近の研究動向を取り上げた。
1. 序論
臨床的トラウマ[clinical trauma]や癌、骨粗しょう症または骨関節炎などの疾患が原因で多くの患者が、損傷した骨の支持や疾患の悪化をもたらす偽関節と骨減少および欠損に直面していることが、臨床観察によって明らかとなった。これらの疾患を治療および予防する上での重要課題は、骨化と骨形成を促進させるために骨芽細胞をどのように作り出すかである[1]。長さ18-22ntの低分子クラス非コード1本鎖RNAであるマイクロRNA(miRNA)は、転写後の遺伝子発現制御による細胞増殖または分化などの調節を通して、細胞の成長に影響を与えており[2]、その上、ヒト筋骨格系では多くのシグナル伝達経路で正因子と負因子の両方の作用を及ぼすことができる[3]。また、骨芽細胞や軟骨細胞の分化、骨吸収と骨形成間のバランス保持、および軟骨内骨化などにおいて、miRNAは骨生物学的に重要な役割を果たすことが研究によって明らかとなっている[4]。
2. 骨形成および吸収間のバランスと転写制御
骨内の骨芽細胞と破骨細胞、軟骨内の軟骨細胞という特定の3つの細胞タイプが骨格のパターン形成に関わっており、骨の代謝が骨吸収および形成間の動的バランスを維持する。骨芽細胞は多能性の間葉系幹細胞(MSC)から分化したものであり、細胞外マトリックス(ECM)の産生と石灰化において重要な役割を果たすと同時に[5]、破骨細胞の分化調節にも関与している。手足や胴または頭蓋骨などにおける形成初期の骨[embryonic bone]は、そのほとんどが主に軟骨内骨化によって形作られたものであり、この骨化様式は軟骨の継続的な成長および分解と、骨組織による一定の軟骨組織置換を伴うものである。現在では骨形成と骨芽細胞分化に不可欠なRunx2やCbfβなど、骨格の発達過程における数多くの重要な転写因子が確認されている[6]。転写因子SoxファミリーのメンバーであるSox9とL-Sox5、およびSox6は軟骨細胞への分化に必要であり、さらに間葉細胞凝集から軟骨細胞肥大化の終了に至る軟骨形成の全過程を通して発現を維持する。Sox9は胚段階において軟骨形成細胞の生存を確保し、Col2a1と他の早期軟骨マーカー遺伝子を活性化する[7]。

骨格発達とホメオスタシス、および再生に不可欠な骨吸収細胞である破骨細胞は、単球/マクロファージ系の造血前駆細胞から分化したものであり、転写因子PU.1は破骨細胞の早期生成を促進させる。破骨細胞への分化で重要となるもう一つのシグナル伝達経路は、下流のM-CSF/c-fmsとRANKL/RANKに位置するMITFやTFE3などのさまざまな主要転写因子に関与しており、これらの転写因子は単球系破骨前駆細胞の多核化に必要不可欠である[8]。
3. miRNAとその生物学的機能
miRNAは最初にRNAポリメラーゼⅡが転写し、リボヌクレアーゼⅢの酵素ファミリーが最終的に切断した後、ダイサーがmiRNA前駆体から成熟miRNAへと変換する。RISC-miRNA複合体は、RNA誘導型サイレンシング複合体(RISK)へ2本鎖の成熟miRNAを一つ加えたものである。相補的な3'非翻訳領域(3'UTR)への選択的な結合を通して遺伝子発現を抑制するmiRNAは[9]、同定済みのもののほとんどが生物種間で高度に保存されており、その発現は組織および細胞特異性だけでなく時空特異性も有している。そのため、miRNAは主に細胞の増殖や分化およびアポトーシスに関与し、動物の発育やホメオスタシス、骨代謝などのさまざまなプロセスに影響を及ぼす[10、11]。いくつかのmiRNAはヒト筋骨格系の形成に直接関わっているため、骨粗しょう症や骨損傷などの筋骨格疾患の予防と治療に関しては、miRNAがその研究対象になる可能性が高い。

分子生物学:癌研究

 「癌研究はいよ変わりつつある。基本から変わりつつあるんだ。分子生物学や分子遺伝学がすすむにつれて、いままでと違った見方が出てきた。その中でも細胞周期(cell 

cycle)の動きが大きいと思う。細胞周期が遺伝子によってうよく調節されていることがわかってきた。その1つにプログラム細胞死っていうのがある。これは、細胞死が遺伝的
にプログラムされている、つまり決められている、ということだ。現象としては、若い細胞がでてくると古い細胞が死ぬということだ。これとは別の話なんだけど、白血球を培
養しようとして、身体から取り出した白血球を培養液に入れても、育だないで死んでしまう。でもこれに成長因子を加えると、白血球は体外でも生きつづけられる。それで最初
に話しだプログラム細胞死はどのようにして起こるのか?”と、この“成長因子とは何か?”という研究がここ10年、飛躍的にすすんでるんだ」

 話が理路整然としている。 の場合、マナ板に水というかドプ板に水で、話が流れない。ドクター・カケフダは立て板に水である。大学で講義を聴いているような気になって
きた。ただ、話が少しむつかしい。

 「細胞死が、どう“癌”にからんでくるかだけど、傷ついた遺イ云子をもつ細胞は、個体から見れば死んでくれたほうがいい。実際、古い細胞の遺伝子には倪が入っていること
が多いから、生体のもつメカニズムとして細胞死はとても重要なんだ。細胞内にp53というタンパク質があって、傷ついた遺伝子を検出していることもわかってきた。 p53は
いわゆる癌抑制遺伝子なんだp53が傷ついた遺伝子を見つけると、その細胞を死に至らしめる、だから、もし卩53の遺伝子に変異が起こって、p53が役に立たないと困ったこ
とになる。傷ついた遺伝子をもつ古い細胞が死なないでどんどん増えてしまう。実は、これが癌なんだ」

 「もっとも、ヒトの細胞内には卩53の作用を抑える遺伝子があることもわかってきた。というわけで、たいていの白血病ぱ遺伝子のバランスがくずれたために起こるという
考えが現在の主流になっている。前立腺癌、大腸癌、乳癌でも関連遺伝子が見つかってきて、多分すべての癌にこの考えが当てはまると思う。いままで、癌のメカニズムに関し
ては/‘正常な細胞が突然変異を起こして異常な癌細胞になる”と考えられていた。これはこれで圖違っているわけじゃないけど、現在のデータから見ると、実体は大きく変わ
ってきた」

 

アメリカに恩を返さない日本の研究者

 

  クラモチさんに本当にお伺いしたいのは、バイオサイエンスについてだけど、参事官殿にとっては、個々のことより大局が大切である。クリントン大統領のお話、日本の科
学技術基本法のお話、科学技術庁が脳研究を推進するお話を伺った。けど、小市民小研究者の、どこか遠い他人事の話を聞いてるような気になってきた。それを現実に引き戻す
ために、「NIHにいる日本人研究者に文句というか、注文というか、希望というか、そういうものがありますか?」、と伺った。

 「研究者には、ノビノビと研究してもらうのが一番いいと思っています。ただ、2年とか3年とかNIHにいて研究をされたら、日本に帰っても、日本の動向をアメリカ側にきち
んと伝える努力をしていただきたい。NIHにいた日本人研究者は学んだことを、ただただ日本にもって帰ってしまう、とアメリカ側の政策担当者は受けとめています アメリカ側
にそう思われるのは、日本としてはいいことではありません。これは日本的な言い方ですが、お世話になったアメリカ人研究者にお返しをしてほしい、ということです。NIHから
日本に帰っても、研究を通して、アメリカの研究者とコミュニケートし⊃づけることが大事じゃないでしょうか。日本の研究者はもっと情報を発信していくことが求められてい
ます。申し上げたいことはそのくらいです」、と言いつつ、メガネの奥のやさしい目が を見つめて、牛うUと光る。「もっとあるかもしれませんが」、とつけ加えて、アッハッハ
ツと笑った。

 「科学全体から見て、バイオサイエンスは、純粋学問的に考えても経済効果を考えても有望な分野です。自分は専門の研究者ではありませんが、生命現象を対象にしていても、
もっと異分野間の交流も必要じゃないでしょうか。例えば、脳研究には、物理の専門家もコンピュータの専門家も加わって、生物医学の研究者と一緒にチームを組んでチャレン
ジしていく、ということでしょうか」、ともおっしゃった。

 帰りがけに、参事官殿は「ちょっと失礼」といって、どこかに電話して、自動車のナンバープレートがどうのこうの、と話している。部屋の戸口においてある“外交官
(diplomat)"と表示してある自動車のナンバープレートを手口「いやー、まだこれに付け替えていないんです」、といいながら、 を日本大使館の玄関まで見送ってくれた。

 「今日はありがとうございました」、と不肖・ハクうク、日本大使館の玄関でクラモチさんに頭を下げた。そのとたんに、大使館入ロロビーにいた黒背広の一行の中にいた中年
男性が、「アリャー、こんなところで」、とクうモテさんに親しげな声をかけた。お会いするのは2年ぶりである。日焼けした腕。元気のいい声研究室のケン・カケフダ博士でもど
こか少し寂しげでもある。女性にもてそうな、やさしいおじさん、ジェントルマンである。

 NIH37号館3E16室で、研究の動向を伺った。

不肖ハクラク著より

オーラルゲノムプロジェクト

 

  「それから、オーラルゲノムプロジェクトもおもしろい。形態形成で最もインパクトが強いんは、ヒトの場合、顔や。顔の造りがどーたらこーたら、人はずいぷんと気にし
はりますな。ところが、顔面の形態形成のメカニズムの研究は、いよまでほとんどやられてなかったんや。形態形成の問題として見ても、顔は複雑でいろいろ新しいことがわか
ってきそうや。いまトピックスや。例えばの話、上唇がさけている口蓋裂傷(クレフト・パラティ:cleft palate)ちゅうのがありますやろ。あんさんのお子がそうやったら、ず
いぷんと悲しみよすわなあ。その口蓋裂傷だけでも100以上の遺伝子が関与してて、研究面から見ると、複雑で、重要で、おおしろいんや」

 顔の造りも当然、遺伝子が支配している。そのうち、ハンサムな顔を決めるハンサム遺伝子が見つかってくるかもしれなし悒キムタクの顔の細胞を分析して、mRNAの発現パタ
ーンを調べてみる手かもしれない。美容整形も外科手術じゃなくて遺伝子導入でやるようになるかもしれない。


 セル・テラピー/ペイン/情報公開

  「もう1つ、セル・テラピー(細胞治療:cell therapy)って、知ってはる?遺伝子治療は知ってはると思うけど、遺伝子やのうて細胞を入れてしまうのや。その細胞もいろ
んな細胞に分化増殖できるもともとの細胞、つまりステム・セル(stemcells)やプロジェニター・セル(progenitor cells)を入れるんや。ケガしたときの骨の修復にも、遺伝的に
異常な組織をつくりなおすのにもええ。本人の細胞をとってきて使うこともできる」

 話がここまで来たとき、「ちょっと待っててな」といって、オフィスを出ていかれた。いつも開いているオフィスのドアのところに誰かが来たらしい。不肖・ハクラク、ドア
を背にしているので誰が来たかわからない。2~3分で戻ってこられた。

 「話が最後になるけど、いよまで分子レベルでの研究があまりされてなかったペイン(痛み)”もいよ脚光を浴びてるわ。痛みはふだんは感じないけど、人問生活で痛みは重
要や。例えば、歯がズキズ牛してたら、細かい仕事はでけへん。そこで、痛みの分子生物学が動き出したんや。痛みを人工的に起こさせて、何かレスポンスするかワどんな遺伝
子が発現するか?」

 先端的な研究上のトップ・シークレットみたいな話ばかりである。心配になって、「こんなこと話してもいいの?」つで聞いてみた。

 「ゲノムプロジェクト「ge冂ome pro」ect)ではな、情報を公開するんが大事なんや。個人が情報をかかえこまん、ちゅうポリシーやな。重要な問題は研究者のためにある
んやない。国民が困ってはるのを解決するんが研究者の仕事なんや。情報公開して、重要な問題を早う、効率よう解明するんが、国民のためなんや。情報公開がポリシーなんや
」とおっしゃった。ス、スバラシイ。さすが実力のある研究者は研究姿勢からして違う。重要なことをどんどん広報するのがポリシーだという。重要なことは外部に漏らさない
、というどこぞの国のポリシーとはまったく逆である。NIHのヨシはたいしたもんだ、不肖・ハクうク、改めて深く感動した。

聞くと、フォガティ・スカラーで来ているという

  夏の夕方、アパートでスパゲティーのソースをつくっていた。 、わが家ではシェフなのである。玉ネギとピーマンのみじん切りを油で炒めて、トマトピューレの缶詰のふ
たを開けようとしたとき、電話が鵈つた、

 [キマタです]という。「日本の牛マタです。10月3日までNIHにいるんです」という。おどろいた。ポンドに、おどろいた。プロテオグリカンの研究では日本の第一人
者というか、世界の牛マタ、というか、その人がNIHにいたとは。

 聞くと、フォガティ・スカう― (Fogaty Scholar)で来ているという。ス、スバラシイではないか。フォガティ・スカラーは世界の著名な学者をNIHに滞在させて, NIHの研
究者に、刺激・アドバイス・アイデアを与えるシステムだ。全世界を対象に毎年2名しか枠がない。アメリカ国内の研究者も有資格者であるが、招聘される研究者はどちらかと
いうと日本人とかユダヤ系外国人が多い。

 最近の日本人では、京都大学の本庶祐、京都大学定年後にシオノギ研究所に移った畑中正一が招聘されている。しかし、来るほうの立場からすると、日本を空けるのはなかな
か大変である。 だうたら喜んでくる(けど、マズ選んでくれないだろう)。

 フォガティ・スカラーは, NIHキャンパス内の丘の上の石造りの洋館、ストーン・ハウス(Stone House)に立派なオフィスをもっている(写真9-5)。「せっかくだから内部を見
てけ」、と木全さんがいう。で、喜んで訪問し、見せてもらった。

 黒人の召使いを10人は必要とするアメリカ南部の荘園風建物である。広大な農場主の娘スカーレット・オハうでも出てきそうな風情の歴史的な建物である。事実、執事風の
黒人が迎えてくれた。

 建物内のどこにいっでも、フカフカのジュウタンが敷いてある。オフィスの中に重厚なマホガニーの机、マ牛をくべる暖炉がある。別の机の上にコンピュータもある。木全さ
んが「見る?」つでウインクしたので、女性用トイレも覗いた。入ってすぐのところに豪華で大きな部屋があり、大きな鏡もある。木全さんがいうように、女性用トイレは確か
に「化粧室」であり「パウダールーム」であると納得した。

 ついこの間までのフォガティ・スカラーは、ストーン・ハウスを住居として使っていた。現在、それをオフィスとして流用しているので、各部屋にバス・トイレもついている
。オフィスはかつでの寝室だったのだ。そのころは、1階の食堂でフォガティ・スカう一が全員そろってディナーをしたという その晩餐会用の部屋も見せてもらった。そのな
りに大きな台所があって、まるで、マウント・バーノン(アメリカの初代大統領ジョージ・ワシントンが住んでいた大邸宅。現在は、当時の暮らしぶりがわかるように屐示して
ある観光名所)である。ところがコ韋い学者が一堂に会して夕食をとると、口論が絶えなかった、ということで晩餐会はやめになったんだ、といって木全さんはウインクした。
なお、木全さんは、「ストーン・八ウスにいるとストレスがたまる」という。それで、実験室のある30号館にポスドク並みの実験スペースをもらって、もっぱら30号館で過
ごしている。木全があーいった、木全がこーいった、と書かれては困る

  「フォガティ・スカラーの期間は、1年間だけど、1年問まるまる日本の大学を空けられないので、4回に分けて1回3ヵ月、4年間、來てるんだよ。今年が最後になるん
だ」、と木全さんはいう。また、NIHにあまり貢献できないので、国際会議を開くことにしたともいう、それがあと1週間後にあるそうだ。そういえば、NIHのあちこちに“国際
会議:病気における複合糖質とマトリックス分子(International Conference on Glycoconjugates and Matrix Molecules inHealth and Disease)”というポスターが貼っであっ
た。

  、木全さんを大学院生のころから知っている。木全さんは、メガネこそ老眼鏡に変わっだけれど、50代半ばでハゲてもいなければ白髪1本石ない。みんなに、[あんたは
苦労してないんだよ]と言われる、といってまたウインクした。

  その昔、ポスドクとしてNIHに初めてやってきたとき、アパートやら家具やらクルマやら、木全さんに全部めんどうみてもらった。挙げ句の果てに、荷物がまだ散らかってい
たアパートの部屋で、疲れてポーゼンとしていたアメリカ留学の記念すべき(?)最初の夜に、木全さんの奥さん(青葉さん、お元気9)が夕食をつくってもってきてくれた。
恩人である。

  ところで、本題である「バイオサイエンスの動向」を聞きたいといったら、「木全があーいった、木全がこーいった、と書かれては困る上とおっしゃった。学者肌なのであ
る。

 ワシントンに到着して少し落着いてから、「エエイ、ママヨ」とクラモチさんに電話した。

 「まだ來たばかりですから、バイオサイエンスの動向といわれましても、自分では、まだまっさらな状態です 大統領府とか国務省筋の行政の話しかできません。でもいらっ
しゃるなら、どうぞ。話の方は期待しないでください」。ほがらかな声に、マイルド感あふれた電話の応対だった。

 ワシントンには各国の大使館が並んでいる観光名所、通称“大使館通り”がある その“大使館通り”、つまりマサチューセッツ・アベニューの奥の方に日本大
使館がある。

 お訪ねした日、大使館内はひっそりとしていた。

 お会いしてみると、「マイルドないい方」の雰囲気をただよわせた爽やかなネクタイ姿の参事官殿であった(写真9-6)。メガネの奥で、目が二コニコしている。参事官殿が自
らコーヒーを入れてくれたが、クリームを切らしているという。不肖・八クラク、「ノープロブレム、サー」と答えた(マサカ0。バランスを欠いていました

  ます、大使館科学班の組織についてお伺いした。

  「科学班は庶務を入れて6名です。内訳は科学技術庁から2名。外務省から1名。

 専用調査員、いまは動燃から来てますけど、1名。アメリカ人で科学調査をする人、

 高級クラークつで呼んでますけど、その人が1名。それに秘書が1名です。これで6名ですよね。私の任期はだいたい3年です」

 199フ年6月18日着任というのに、お会いしたのは2ヵ月後の8月18日なので、着任後まだ日が浅い。「何でも構いませんから」ということで、科学研究の動向をどう見
ておられるのか伺った。

 「私は'89~'92年の3年間、書記官としてこの日本大使館にきていました。というわけで、帰国してから5年経ちます。5年間の変化をお話ししましょう」

 「当時は、日本の経済がとても強いときで、「NOといえる日本」という本が出たり、日米貿易戦争が盛んなときでした。科学研究でも、日本は基礎研究をしないで、研究成果を
応用することに力をそそぎ、うまく金儲けして、するい、という基礎研究タダ乗り論が盛んでした。そういうときはいつもNIHがやり玉に挙げられていました。日本人が常時
400人石いて、NIHで学んだことを日本にもって帰る。一方、アメリカから日本にくる大はわずかです 明らかにバランスを欠いていました。それで、日本も必死になって対応
して、ヒューマン・フロンティア国際プロジェクトを提唱したり、国際砠究交流を促進したり、国際フェローシップ制度をつくったりしました。論文も、アメU力から日本に大
ってくるだけで、日本からアメリカには流れない。それで、日本語の論文を英語に翻訳して流すなどのこともしました]

 「5年経ってみると、いまいったような日米間のタタ牛合いがほとんどなくなっています。日本側の努力もあるでしょうし、アメリカ側も経済力が回復して自信がわいてきたの
でしょう。ただここに、巖近でたNational日esearch Coし」冂cilのレポート2)があります。そこには、日米間の科学技術研究開発の諸問題は、現在騒がれていないけれど、問
題そのものが解消したわけではない。問題を忘れないように、と書いてあります]と最近でたレポートを見せてくれた。ページのあちこちに蛍光ベンで黄色い線が引いてあって、
相当勉強している様子である。

 [5年前との違いがもう1つあります。アメリカがアジアを意識しているということです。中国、韓国、東南アジアを意識しています。それらの国々に大きな市場があるという
ことがその背景です。アジアではまだ日本が中軸ではありますが、5年前と少し肌合いが違ってきています」 ここで、つくっていただいたコーヒーを頂戴した。

不肖ハクラク著より