英米は共通のことばで分断される
イギリス人とアメリカ人は「共通の言語」によって分断されていると述べたのは、皮肉屋として有名なジヨージ・バーナード・ショーであった。書きことばとしてみれば、イギリス英語とアメリカ英語の相違はほとんど感じられないが、話しことばに関してはその相違は英米を「分断する」ほど大きいものがある。 BBCとVOAでイギリス英語とアメリカ英語を聞きくらべてみると、個別の音、イントネーション、強勢のおきかたに際立った相違のあることがわかる。
ここでは名詞に関して強勢の相違をみておこう。次に示す語のどの音節がもっとも強く発音されるだろうか。もっとも強く発音される音節(第1強勢)を匸 その次に強く発音される音節(第2強勢)を`で表わしておいた。なおBirminghamは固有名詞であるが、イギリスではバーミンガム[b5:mirjam]、アメリカではバーミンハム[b5:rmi!]hま・m]と発音される。「英前米後」
こうした多音節語について一般化するならば、イギリス英語では第1音節に強勢がおかれるのに対し、アメリカ英語では第1音節に加えて、語の後半部に強勢がもう1つおかれる傾向が強い。
その結果、アメリカ英語では第2強勢をもつ音節は長母音になることが珍しくない。territoryは[terito:ri]、dormitoryは[d5:rmato:ri]のように発音される。一方、イギリス英語では語頭に第1強勢がおかれて語の後半には強勢がない。 secretaryを例にとって強勢とリズムを示しておく(●は第1強勢、○は第2強勢、●は強勢のない音節)。
イギリス英語 アメリカ英語
secretary secretary
[sekratsri] [sckrateri]
●●●● ●●○●
アメリカ英語では[強弱強弱]というリズムをもつが、イギリス英語では[強弱弱弱]となり、さらに友人同士などのインフォーマルな会話では、2つの弱い`'[a]は脱落して[sekrtri]、さらに3つの連続する子音[krt]のまん中の[r]が落ちて、
sec'try
[sektri]
● ●
のように単なる[強弱]というリズムに変わってしまう。
応用問題としてlibrary (図書館)を考えてみよう。標準的には、
library
[laibrari]
● ●●
となり、[強弱弱]というリズムで発音されるが、まん中の[弱]が脱落して[laibrri]、さらに重複する[r]の1つが落ちて、[laibri]と短縮される。
これは決して方言とか非標準的な発音ではなく、イギリスでは大学のスタッフも[laibri]ということが多いようだ。このほうが3音節の[laibrari]よりもはるかに発音しやすい。日本人でこのような自然な発音が囗をついてでてくる人は、発音全体も総じて優れているように思われる。
ただし、こうした弱音節が消えるのはイギリス英語にかぎられた現象である。 libraryをとってみると、アメリカ英語では[laibreri]が標準的な発音であり、第2音節の[e]は第2強勢をもつところから、脱落することはないoイギリス英語が
lib'ry
● ●
[強→弱]
のように一気に強から弱へと転じるのにくらべて、
library
●○●
[強→中→弱]
のように強から中間段階をへて弱に転じるのが、アメリカ英語の特色である。アメリカ英語がダイナミックにひびく理由の一端は、リズムの点からも説明できる。
『英語表現を磨く』豊田昌倫著より