サブウェイとは地下通路

 

 日常生活で誤解を招きやすい例をもう1つあげておく。subwayという単語から私たちはなにを思い浮かべるだろうか。「地下鉄」と答える人が多いはずだ。事実、東京や大阪など日の地下鉄はsubwayと表示されているし、高等学校の教科書でも「地下鉄」の意味でsubwayを使うのがふつうである。

 ただし、この語義をも。つのはアメリカ英語であり、イギリスでは地下鉄のことをundergroundあるいはtubeと呼ぶ。ロンドンの地下鉄は、Undergroundのように大文字で一種の固有名詞のように使われている。この語は文字どおり「地下」を意味し、元来はundergroundrailway (地下鉄道)のように形容詞として用いられたが、名詞に転化されて1語で「地下鉄」の意味をもつようになった。

 英語における最初の例は、ジャーロック・ホームズでおなじみのコナン・ドイル作『緋色の研究』(1892年)の次の例とされている。

A third class carriage on the Underound.

(地下鉄の3等車)

 subwayはイギリスで使用されると、アメリカとは異なり「地下道」ないしは「地下通路」の意味となる。アメリカ英語あるいは日本の慣用になれた人が、ロンドンでもよりの地下鉄の駅を尋ねるときに。

  Where IS the nearest subway station?と聞けば、一瞬、沈黙が訪れるかもしれない。『地下道』には駅はないからだ。

 地下鉄に関連している便利な表現を覚えていただこう。イギリスの女流作家、アイリス・マードックの小説『魔に憑かれて』は、地下鉄ファンにとって見逃せない作品である。作者自身この小説を「地下鉄男の記憶」あるいは『内環状線』と名づけたかったと述べているように、随所にロンドンの地下鉄および地下鉄の駅が描かれているが、作品中にUndergrounderという語がみえる。

 l was not the o nly Circle rider. There were others, especially in winter. Homeless people, lonely people, alcoholics, people on drugs, people in despair. We recognized each other. It was a fit place for me, l was indeed an Undergrounder.

  (環状線に乗っているのは私だけではなかった。とくに冬にはほかにもいた。ホームレス,さびしい人,アル中,麻薬中毒,途方にくれた人。われわれはおたがいにそれと分かったのだ。私にはもってこいの場所であり,私はいわば地下鉄男であった)

「私は地下鉄に乗るのが好きだ」というときも、I liketo ride an underground (a subway)。などと表現するよりも、簡単にI am an Undergrounderといえばいいことがわかる。

『英語表現を磨く』豊田昌倫著より