凍りついた表現としてのイディオム
ねこといえば、有名なイディオムにcats and dogsがある。
It rains cats and dogs・
(雨がどしゃぶりに降る)
のように使われるのはご存じのことと思う。これは定型表現で、
It rains a cat and a dog.
It rains the cat and the dog.
It rains dogs and cats.
It rains the dogs and the cats.
などと名詞の形や配列を変えることはできない。
このようにいわば「凍りついた」表現をイディオムと呼ぶ。意味の観点からは、イディオムの意味はその構成要素の総和とはしばしば無関係である。すなわち、
[cats (ねこ) +dogs (犬) = heavily (はげしく)]という等式は成立しない。同様にkick the bucket というイディオムは「死ぬ」を意味するが、kick (ける)とthe bucket (バケツ)の総和からその意味を推測することは不可能であり、the bucket is kickedと変形して受け身にすることも許されない。
パブに入る
パブはイギリス人の生活に欠かすことのできない場所である。どんな地方の村に行っても、その中心にはパブがあるし、都会の街角ではきまって店の看板が目に入る。
アルコールに弱い私も、ロンドンではときどきパブに足を向けるようになった。ソフトドリンクも求められるし、なによりも「自由」なのがいい。片隅で新聞を読みふける人、何時間も話しこむ人、ダーツやビンゴに夢中の人など、1杯のビールがあれば自由な空間に変わるのがパブ。ある意味では日本の喫茶店に似ているといえようか。
ビールには日本のビールに近いラーガーと、やや苦みのあるビターの2種類があるが、おすすめぱイギリス独特のビターである。決まり文句では次のようにいう。
A p int of your best fitter, please。
(最上のビクーを1パイントお願いします)
例の[名詞+ please]構文で不足はない。 パイントは、
液量の単位で0.57リットル、ほぼ大ジョッキに相当する。
上にイタリック体で示した[p][b][b][p]はいずれも破裂音で、一種の頭韻をふんでいるところから、口調がよくまた覚えやすい。 “your best” という箇所がにくぃではないか。この表現を知っていれば、どこのパブに入ってもだいじょうぶ。主人ぱ自慢の銘柄をなみなみとついでくれるはずだ。
『英語表現を磨く』豊田昌倫著より