読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

階級方言

 

 では、デクスターの処女作の一部を読んでみよう。舞台はオックスフォードからウッドストックへ向かう道路ぞいのThe Black Prince。 ゲイはこの由緒あるパブで働く女性である。

(5)“Now, sir.

    “・We'd all like the same again, please.Three gins and tonics.”

    Gaye looked at him with interest. The landlord had once told her that if anyone ordered‘gins and tonics' instead of the almost universal ‘gin and tonics'―he really was a don.

    (「次のかた」

    「みな前とおなしのを頼むよ。ジントニックを3杯」

    ゲイはおやという顔をして彼を見た。ふつうはほとん

    どの人が“gin and tonics”と注文するが、もしもだれかが“gins and tonics” といえば、その人はオックスフォードの教授なんだとマネージャーに聞いたことがあった)

 ここでは2つの事実が指摘されている。まずgin andtonicsがふつうの複数形であり、加えてgins and tonicsは大学の教授が用いる形式であると。 gins and tonicsはただの気まぐれではなくて、一種の職業方言、ないしは階級方言という事実である。

 次に引用するデクスターのその後の作品にも、gins andtonics (よ説明ぬきで用いられている。第1作を読んだ読者にはあらためて解説の必要がないからである。

(6) Whilst the other four took their seats Ill the upstairs lounge of the Cherwell Motel, he walked over to the bar and ordered the drinks: two gins an丿tonics, two medium sherries, one dry sherry―the latter for himself.

  He was very fond of dry sherry.

   (ほかの4人はチャーウェル・モテルの2階のラウンジに腰を下しかが、彼はバーに行って飲み物を注文した。ジントニックを2杯,ミディアムのシェリーを2杯,ドライシェリーを1杯。最後のものは自分のために。彼はドライシェリーが大好きだった)

           (「二コラス・クインの静かな世界」)

(7)“Have you just ordered?"

    “Yes―I'll soon be out of your way."

    “You wouldn't mind, wou]d you, ordering a drink for me as well?"

    “Pleasure!"

    ."She pushed

  a pound-note into his hand―and was gone.

(7)ではgins-and-tonicsとハイフンつきであるが、発音自体はgins and tonics と変わらない。(6)の「彼」

(7)の「彼女」がどのような人物かはすでに明らかであろう。

 小説のなかの記述は必ずしも事実を反映するとはかぎらない。 しかし、それを承知の上で、(5)で述べられているgm and tonicsとgins and tonicsのもつ相違を頭の片隅にでもおいておこう。オックスフォードを訪れる機会があれば、由緒あるパブに立ちよって、注文してみたいものだ。どんな反応が返ってくるだろうか。

『英語表現を磨く』豊田昌倫著より