リハビリテーション医学

 

 小学入学前の年長組になりますと、身体の協応運動機能もさらに伸びてきて、ブランコをこぎながら立ったり座ったりしたり、縄跳びが一人でできるようになったり、ジャングルジムで落ちないようにしながら他の子どもと鬼ごっこをしたりするようになります。手先もかなり器川で、折り紙をきちんと折ったり、經験したことを絵に描いたりするようにもなり、早い子どもでは文字も書くよ引こもなります。タオルも自分でしばれるようにもなります。

 言語面では文法的にも間違いが少なくなりますし、自分で訂正しながら話すこともします。物事の説明も上手になります。自分の住所と電話や誕生日を知っています。[しりとり]や「なぞなぞ」もできるようになります。

 対人・社会面で、ゲームのルールがわかるようになったり、友だちと物の取り合いをしたときにじゃんけんで決めるなど、問題解決能力もついてきます。また、ごっこ遊びもグループでするようになり、ストーリーのある組織的遊びへと変化していきます。

 以上のようにO歳から就学前までの通常の発達について、「ことばの発達」を中心に運動、社会面も含めた全体発達を簡単に述べてみました。幼稚園・保育園の保育者の先生方や保護者から出される、運動面、言語・コミュニケーション面、対人・社会面での[気になる行動]がその子どもの年齢の発達に見合わないほど、異常である場合は、なんらかの[発達障害]を疑ってみて、発達のわかる小児科医や「発達障害」を専門とする児童精神科医に相談してみることも必要です。


 近年、[統合保育]の理念が浸透していき、1つの幼稚園や保育園にはかならずといっていいほど、1人か2人の障害児が在籍しています。幼稚園・保育園と併行して地域の障害児育通園施設や療育センター、福祉センターにも、専門的療育指導を受けるために週]、2日、または月に1、2回通っている障害児もいます。「障害児」の「障害」ということばについて、まず考えてみたいと思います。

 「障害」とは、日本語では1つの言葉ですが、英語にするといくつかの単語に分かれます。大きく分けるとdisorder、 impairment、 disability、 handicapと4つの単語が当てはまります。

 最初に、 disorderという単語は、日本語に訳されると、病気、障害となります。通常は診断をつける際に使われる用語です。この“disorder”は、語源からいうとorderつまり“順番”が“狂っている”、“いつも通り機能して働いていない(心身機能の不調)”ということになります。この章では、発達の遅れについて述べていますから、言語面とか、運動面がうまく機能したり、働いたりできていなかったりするわけです。

 次にimpairment、 disability、 handicapという3つの言葉をリハビリテーション医学の言葉で説明しましょう(三宅・尾崎、 1995)。リハビリテーションとは、能力の快復(病気がよくなること)と社会生活への適応を目的としているものです。

 まず、‘impairment”ですが、疾患(disorder)によって脳や身体の機能がなんらかの喪失があったり異常があるといる状態。これは一次的に身体のどこかが悪いあるいは良くない状態にあることが推測されるということです。

 “disability”とは、一次的な障害の結果、「○○ができない」「△△ができない」というふうに、いろんなことができないという“能力の障害”が二次的に起こってくることを示します。何かをやりたくても十分にうまくできない、あるいは人の援助を得なければできないということです。

 最後に、“handicap”とは、これは、一次的な障害(impairment)、そして二次的な能力障害(disability)の結果として、その本人および周囲が感じる不便さ、困難さということになるでしょう。その個人に“結果として生じた不利益( disadvantage )”であり、その個人にとって(年齢、性、社会、文化的な意味で)正常な役割を果たすことが制限され、妨げられている状態のことをいいます。この最後の“handicap”という言葉は、「ハンディキャップ」として、日本語にもなっていますが、最近は、アメリカでぱchallenge”という新しい表現に置き換えられつつあります。たぶん何かをするのに一つひとつ普通の人よりも頑張ってやらなくてはいけないという意味から來ていると思われます。

 このようにリハビリテーションの視点では、一般に障害を「impairment (機能障害)」、「disability (能力障害)]、「handicap、 or challenge (社会的不利)」の3層の構造に分けて考え、おのおののレベルに対応した援助を行うことを基本としています。

 以上を簡単にまとめると、①最初に、何かしらの疾患(disorder)あるいは状態があって、②その原因を推測すると→一次的な機能・形態障害(impairment)があり、③その結果→二次的な能力障害(disability)が生じてきていて、④また、その能力の障害の結果として→三次的な社会的不利(handicap)が起きてくるというふうになります。

 そういった子どもの社会的な不利益が起きてこないように、周囲の人たちがその子どもを理解し、配慮してあげることがどうしても必要となります。その子どもの社会の中での不自由さをいかに最小にして、その子どもがこの社会の中で生きやすく、その人にとって幸せに生活できるようにしていくことが、教育と福祉の基本姿勢でしょう。また、障害児とまわりの子どもたちや大人たちが、たがいに生き合う、人どうしが生きるという共同的な生き方、どう共生していくかを考えることが、統合保育の重要な視点ではないでしょうか。

 さらに一人ひとりの子どもが必要とする配慮のことを「special needs (スペシャル・ニーズ)」といいますが、障害児一人ひとりの障害の特性にあった個別の配慮がもっとも重要です。保育の現場で、「個別の配慮を必要とする子どもたち(children with special needs、 アメリカで障害児のことをこう呼ぶ帽の障害の特性を周囲の大人や子どもたちが理解し、適切な対応と支援をしていくことが必要です。“スペシャル・ニーズ”=“その子どものもつ個性への周囲の理解と支援”ということになるのではないかと思います。

『保育に生かす心理臨床』より