言語・コミュニケーションの問題

 

  言葉をしゃべったり、相手から言われたことを理解するのが苦手

 自閉症の子どもでは、3歳までの生育歴で「ことばの遅れ」がほぼ全員に見られます。名前を呼んでも振り向かなかった、指さしがなかなか出なかった、1歳半子ぎても有意味なことばを一語も言わなかった、ごにょごによと何だかわからないことを一人でしゃべっている、1歳子ぎにことばが1~3語くらい出だのに2歳になる前に消えてしまった、などもよく聞かれ圭子。 4、5歳くらいになってようやくことばが出てくるようになったのですが、しゃべることぼけひとり言ばかり。たくさん話すようになったのだけれど、こちらから聞かれた質問に応えることは少なく一方的で、実際に人とことばでやりとりするのは苦子だったりします。2語文、3語文は出ていて、それを会話の中でやりとりとして十分に用いることはできなかったり、文法的に正しく使えないことがあります。たとえば、お父さんが帰ってきたときに「お帰りなさい」と言うところを[ただいま]と言ってしまうなど、受け答えが反対になってしまう、また「あげる」と「もらう」も反対に言ってしまったり、自分がクッキーを欲しいときに「クッキー、ちょうがい」と言える子に[クッキーをどうぞ]とか、「○○ちゃんにあげましょう」とか、「○○ちゃんクッキー好きですね」と言うように、ことばの使い方が奇妙なことがあります。

 また、自閉症児のことばの特徴として「オウム返し」がよくあげられます。聞いたことばをまったく同じように言うことです。抑揚まで同じに言う子どももいます。たとえば、「何してるの?」と聞かれて「ナニシテルノ?」と答えたり、[どっち?]と聞かれて[ドッ子?]と答えるなどです。これは、医学的には「エコラリア(反響言語)]といい、その場で言われたことをそのまま繰り返すので、「エコラリア」ともいいます。これはその場で相手に言われたことばの意味の理解はできなくても、がしゃべった発音やイントネーションは記憶して再現することができるといった自閉症児の特徴に基づくものと考えられています。年齢が上がってエコラリアがずいぶん少なくなってきて、応答性もよくなってきた子どもでもときどきエコラリアを言うことがあります。この場合はこちらの言ったことや質問が理解されていないということなので、保育者はわかりや寸く言い換えたり視覚ヒントを使うようにしましょう。

 前述の社会性の問題でもふれたように、自閉症の子どもによく認められるひとり言としては、コマーシャルのフレーズの決まった部分を何度も繰り返してしゃべっていたり、テレビドラマ(アニメの漫両であったりすることが多い)の中でよく出てくる主人公や決まったキャラクターがしゃべるせりふを言ったりすることがあります。まったく不適切な場面で言うこともあり、ある程度は状況に合わせて言うこともあります。これを普通「遅延|生エコラリア」といいます。通常のエコラリア(のことばをそのまま繰り返子「オウム返し」)と異なり、以前の会話の内容やCMや歌の一部分を繰り返して話子ことを示します。遅延性エコラリアの例を示しますと、たとえば保育園などで、ある自閉症の子どもがたとえば高いところに勝子に登ったり、触ってはいけないものを勝子に触ろうとしたり、なにかしら困ることをしようとしたときに、しばしヱ他の園児がそれを見つけて「せんせーい!」と保育者を呼び、先生が「○○ちゃんダメでしょー!」と叫んだりします。そうしたやりとりが保育園でなんどとなく繰り返されるためか、その自閉症の子どもは、家に帰ってもしばしば自分一人で、「せんせーい! ○○ちゃんダメでしょー!」と繰り返してしゃべっていたりします。

 話はするのだけれど、声の卜-ンが単調で、変な抑揚がついていたり、不自然な口調であったり、声がやたらに大きがったり小さ子ぎたりすることも多くあります。また、ことばにはならない、よく聞き取れない発音をただひた寸ら寸っと「ゴニョゴニョ」「ムニョムニョ」と何かしら発声しているだけのこともあります。

 聴覚障害者のようにことばを話さない人は、手話やサインなどいろいろな非言語的コミュニケーションの手段を用いようとしますが、自閉症児の多くは動作やサインをあまり使おうとしません。人の動作の模倣がうまくできないことはよく知られている特徴ですが、時にの動作や運動を正確にまねることもあります。しかしこれは、正確であっても無目的で無意味なまねであり、これを「エコプラクシア(反響動作)]といいます。この動作の模倣ものことばや状況を正確に理解できていないための行動であると考えられます。コミュニケーションとしてのことばがほとんどない子どもの場合は、指さしもあまりなくて、かわりに[クレーン動作](ハンドリングともいい、人の手をつかんで何かしてばしいところに持ってい①を多く使い圭子。人とのやりとりがことばを使って十分にできるようになると、クレーン動作はまったくなくなるのが普通です。 その場に結びついたやりとりのある会話ができるようになるためには、たとえ、少しことばを話子ようになった子どもの場合でも、そのつど場面にあったことばを具体的に状況に合わせて、教えていく必要があります。

『保育に生かす心理臨床』より