アスペルガー症候群と高機能自閉症

 

 アスベルガー症候群を自閉症と区別して考えた方がよいかどうかは議論となるところですが、現在の国際的な診断基準では自閉症アスペルガー症候群を区別して診断することになっています。

 アスペルガー症候群自閉症との一番大きな違いは、[明らかな言語面・認知面での遅れが過去から現在までに存在しない]ということです。自閉症であっても5~6歳の時点ではもう子でにことばの発達が追いつき言語の遅れがみられない子どももいます。診断基準の定義からすると自閉症であれば3歳以前になんらかの言語や認知的な発達の遅れや異常が認められているは子です。3歳以前に言語および社会性の発達の遅れと興味関心の偏りが3つともそろってあり、3歳以降に言語あるいは認知的な発達において遅延や遅滞が認められなくなった、知的能力が境界域以上の自閉症を「高機能自閉症」といいます。

 自閉症の場合は、3歳以前より、ことばの遅れやその場でのオウム返し、遅延性エコラリア、意味不明のひとり言のような発語、一方的な発語はあるもののやりとりのある会話に乏しい、やたらと質問が多い、しゃべるわりに言われたことを理解できていないなどの言語・コミュニケーションの面での異常が認められ、また行動面では自分勝子な行動、視線をしっかり合わそうとしない、ぎこちなく不自然な身体の動き、横目使いで見る、表情や抑揚の乏しさなどが認められます。

 自閉症と異なり、アスペルガー症俟群の場合は、上記のような振子が多がれ少なかれ認められるものの、3歳以前のことばをけじめとした知的な発達には明らかな遅れを認めないことが特徴です。 1歳6か月児健診や3歳児健診でほとんど問題を指摘されることなく育っていたのに幼稚園や保育園に入園後はじめて、[なにかしら集団によくなじめ子に浮いてしまっている]とか「ちょっとしたことでかんしゃくを起こす」など「ちょっと変だけど、知的には知っていることが多くて遅れはなさそう」「集団で同じ行動がとれない」「大人が使うようなむ子かしいことばを使うわりに、普通の会話にまとまりのない子」といったことに気づかれます。

 どうしても保育者たちは、遅れがなさそうなのに「他の子どもといっしょに遊べない」とか[いつも孤立している]「友達がいない」というと発達の問題ではなくて、家庭環境や生育環境からくる心理的な問題があるのではと考えがちです。また、家族もその子どもがちょっとおかしい、あるいは変だとは感じてはいながら、「他の園児になじめなく、すぐキーキーいってかんしゃくをおこす」のは「ちょっとカンの強い子」といった言い方ですましてしまいがちで、1歳6か月児健診や3歳児健診で、「この子はおかしい」としっかりと自覚して母親や父親が感じることがなかったような子どもが多いのも特徴の一つです。そのため小学校や中学校に入り著しい不適応を起こした後ではじめて、アスペルガー症候群と診断されたりします。

 しかしながら、何かしら問題が起こって病院に來てから保護者に過去の幼児期の生育歴をさかのぼって聞くと、幼児期に「かんしゃくを起こしや寸かった」とか「奇妙な自己刺激行動ともとれる常同的な身体の動き(たとえば、ピラピラした歩き方、つま先歩き、全身のぎこちない動き、不自然なとびはね等)が認められた」[ごっこ遊びをしないで、砂場などで一人遊びにふけっていた]「電車やカタログ絵本、国旗、道路標識、昆虫など自分の興味のあることにだけにこだわり続けていた]「表情が乏しかった」「不自然に笑ったりヘラヘラしていた」、逆に「不愉快そうな顔をしていた」「睡眠が不規則で夜泣きが目立った」「喃語が少なく3歳の頃までことばがやや遅かった」などのエピソードが認められていたりします。典型的な幼稚園保育園のころの特徴としては、「園の学芸会やお遊戯などの集団場面にみんなと同じ行動や動作で振る舞うことができなかった]ということがあげられます(杉山、 1999)。

 最後にもう一つの特徴としては、「全般的な知能はほぼ正常であるが、著しく不器用であることが多い」とされています。男女比は8:1の割合で男児に多いとされており、アスペルガー症候群の頻度については、 300人に1人という報告もありますが、有病率については今後の調査が待たれるところです。

『保育に生かす心理臨床』より