精神医学的にいう気分(感情)障害

 

 さらに衝動性とも関連しますが、しばしば思うようにいかないために腹を立てて怒るとか、他児率家族に暴力をふるったり、かんしゃくを起こすこともあります。大人に対しても、口論をしたり、反抗的な態度をとったりします。よくあるのは、親に対して[○○を買ってくれないと許さないぞ]「どうして買ってくれないんだよー!」「買ってくれるって言っただろー!」などおもちゃへの要求が激しく執念深いため、要求がエスカレートしたりします。平気で意地の悪いことや残虐的な行動をしたり、そうしたことをしゃべったりすることがあります。

 ここで重要なのは、万が一、実際に動物へのはっきりとした虐待行動が認められた場合には児童相談所に相談に行くなどして、早急に周囲のみんなで協力して対処法を考えていく必要があります。このように周囲の大人や子どもに対して著しく反抗的あるいは非社会的な行動が目立つ場合にはそういった問題がどうして起きてきているのか、どう子れば防げるのかということを医療機関を含めた信頼できる専門家と相談しながら検討していかなければなりません。

 原因の1つには、その子の不注意・過活動の問題からくる、感情や行動をコントロールする力が未熟というその子ども本来の一次的な脳機能の未熟さそのものからくる問題があります。次には、そうした一次的な障害の結果として、さますまなことがうまくでき子、周囲のみんなから注意や非難を受けたり、バカにされたり、のけ者にされたりした結果として、自信を失い情緒的に不安定となり、ますます欲求不満がたまって周囲に対して攻撃的な態度に出てしまうという二次的な情緒的・心理的な障害が考えられます。あるいは、そういったストレスが積み重なった結果、精神医学的にいう気分(感情)障害を合併していることもあります。子どものうつ病は、 ADHDに合併して認められることも多く、症状はイライラ感だったり、気まぐれに気分がころころ変わったり、以前はやっていたことに対して「いやだ、やらない」と言ったり、爆発的に怒ったり、相手を非難するといった反抗的な態度としてあらわれることがあります。

 現在広く用いられている世界保健機関(WHO)やアメリカ精神医学会の診断基準では、 ADHDは主として、「衝動の障害」としてとらえられています。しかしながら、実際にADHDの(あるいはADHDが疑われる)子どもに接する際には、やはり医学的な意味でいうと発達障害の中の、一つの状態として考えていくことになります。前述の「自閉症」や「アスペル万一症候群と高機能自閉症」などの項で述べました発達面での問題が、 ADHDの子どもたちの生育歴の中でもみられることがあります。 ADHD と診断を受けた子どもの中には、「ことばをしゃべりだ寸のが少しだけ遅かった」「ことぼけ早かったけど、自分の思うことをうまく表現でき子に『えーつえーつと』と話寸のが自分でももどかしそうでイライラすることがあった」とか、「発音が不明瞭あるいは吃音(どもる)」「ことばはあっても、自分が経験しかことをうまくまとめて話すのが苦子」「ごっご遊びはもともとあまり得意でなく、同年代のお友達どうしのなかではどちらかというと一人でマイペースに遊んでいた」「分離不安が強く母親から離れられなかった」[幼稚園の先生にいやにべ夕べ夕して離れなかった]「聞き分けがなく過度に自己中心的」「首のすわりの時期が少しだけ遅かった」「からだの使い方がぎこちなかった(ピラピラした歩き方、不自然なとびはね等)」「夜泣きが多く睡眠が不規則だった」などのエピソードが多くあります。これらの特徴は高機能広汎性発達障害の子どもにも共通してよく認められることがらです。また、ADHD(あるいはそのリスク児)の子どもの巾には、運動面で自転車・三輪車、片足立ち・ケンケン・スキップなどの運動が苦手だったり不器用であったり、力のコントロールがうまくできないことが多くあります。本人としてはちょっと気軽に叩いたりしただけのつもりが、力の調節が著しくへたであるために叩かれた方はすごく痛い思いをしたりします。書字の面でも、筆圧が弱すぎたり、強すぎたりしてすごくへたな字を書いたりしますし、小さな枠の中におさまるように字を書くことができ子、枠からはみ出したりします。社会性の面でも周囲の状況に合わせての適切な判断や自分の気持ちをコントロールすることが苦子とったりします。

 まとめとして、 ADHDの子どもの症状は、不注意、過活動、衝動性といった3つの特徴的な症状だけにとどまるよりは、むしろ過去に言語発達の未熟さが認められたりして、現在でも運動面での不器用、社会性の問題、あるいは読み・書き・計算などの学業面の困難さが合併して認められることの方が多いというくらいに考えていてもよいかもしれません。