園-家庭・子ども-専門機関の連携

 

 最後に専門相談療育機関や医療機関につながった場合は、幼稚園・保育園一家庭一専門機関の3者がしっかり連携していくことが必要です。子どもを取り巻く、子どもの療育に携わる人たち全員が、子どもの発達と家庭(保護者)の安定をどう援助していくかを考えていかなければなりません。

 1 保育カウンセリングの必要が生じるとき

 この場合の心理相談は、保育者が行う場合もあるし、心理の専門家などが行う場合もあります。ここでとくに、主として保育者が相談活動を行うことを考えてみますと、誰の誰に対する心理相談かという相談の構造が、一般のカウンセリングとは非常に異なる点です。子どもが自ら相談を要請することは、ほとんど考えられないのであって、相談は、親や保育者がその必要を感じて始まります。とくに保育者の方から親に呼びかける形で相談が始まる場合、相談関係が成立するまでに、保育者は多くの工夫と労力が必要となるわけです。

 相談の必要が生じる事態は、大まかに次の4つが考えられます。

1.保育の中で、子どもの心身の発達状況に問題が感じられるとき

2.日常の保育の流れの中では対応できないような問題行動を呈するとき

3.家庭に問題が感じられるとき

4.保護者から相談の申し出Iがあるとき

 相談したい動機づけが親の方にあって、これに応じる形で始まる相談が、いわゆるカウンセリングと呼ばれるものの前提にもっとも近いと思われますが、1から4のうちで、はじめからその条件を満た子ものは4だけです。

 カウンセリングに関する臨床心理学の知識は、子でに保育や教育場面でも多く利用されていますが、本来、一人の心理臨床家とクライエントの織りなすカウンセリング過程には、多くの前提条件があるのです。たとえば、精神分析的な心理療法では、この条件を治療構造と呼び、治療過程に大きな影響を与える要因として重視されています。どんな場所で会うのか、どれくらいの頻度で会うのか、治療の目的、料金など、はじめに設定した条件をできるだけ一定にしておきます。カウンセリング過程において心理臨床家とクライエントが心と心のやりとりをするための安定した状況を作っておく必要があるのです。

 心理臨床家はどんな学問的立場であれ、クライエントとの話をじっくりと聞くことによって信頼関係を作り上げていきます。話をじっくり聞けるそもそもの環境を設定しておくからこそ、できることでもあるのです。このような心理臨床家としての一般的な態度は、いわゆるカウンセリングの基本的態度と呼ばれるもので、保育や教育場面で大事にされる態度としてよく知られています。専門家でなくと払むやみに批判したり、意見を押しつけることなく、ある程度誠意をもっての話に耳を傾けることができれば、話したも受けとめてもらえたと感じることができ、ほどはどの信頼関係は形成されます。ただし、に嫌われないよう、よい関係を維持しようと、の言うとおりに合わせることだけでは、本当の信頼関係とはいえません。このような関係は、結局あるところまできて、本音を語れない関係に終わります。保育者と親のお互いが尊重され大切にされる関係にむけて努力する姿勢が、の信頼を得ることにつながるのです。

 しかし、カウンセリング本来の治療構造と口常の保育場面を比べてみると、こうした構造を設定することがいかに困難か、おわかりいただけると思います。保育場面で家族や子どもと信頼関係を作っていくには、親が話を聞いてもらえる時間をたくさん作ることより払 日々のちょっとしたやりとりのなかで、保育者が親の気持ちをキャッ子しているよ、と伝わるような応答をするよう心がける方が現実的です。小さなやりとりが毎日あることが強みなのです。そして親たちは、自分に対する接し方に加えて、子どもへの保育者の真摯な関わりや、園全体の様子などからも信頼を向けるようになっていきます。 1週間に1度1時間まとめて話を聞いてもらうのとは違った形で強い信頼関係が育つのです。

 相談の始まりは、送り迎九時のほんのちょっとした立ち話がほとんどでしょう。とくにその親だけと話子というわけにはいか子、話が中断されたり他の親だちとのあいさつがあったりもします。ですから、こちらの熱心さのあまりに家庭の細かな事情を根ほり葉ほり聞き出子ようなことは慎みたいものです。虐待のように子どもの安全に関わる問題以外は、親が語れる範囲のものを受けとめることに徹するのが好ましいのです。また親が配偶者を悪くいうような場合、どちらか一方に|司情し子ぎると、語られる内容を冷静に聞き取るゆとりがおのずとなくなるので、こういったことにもできるだけ注意しましょう。