赤ん坊のクリェイティヴ・スピーキング

 

「中年から英語を学ぶ方法はありませんか,先生」という質問が多い。

 私は「ない」と答える。更に,高校から始めても遅い,とつけ加える。

 その理由は,赤ん坊のようになれないからである。

 大人になり,社会的地位が高くなればなるほど,リスクがとれなくなるということはすでに述べたが,一番リスクのとれる状態はプライドなき赤ん坊である。

 外国語を学ぷ秘訣は,赤ん坊の心を取り戻すことである。

 そのリスクがとれるだろうか。

 私がかつてネイティヴの赤ん坊を最も強敵と考えて近づいたように,集中してネイティヴの赤ん坊の英語に耳を傾けてみよう。

 生後18ヵ月のアメリカの子供は, dada, mama, babymilk, read more 等々と発音するらしいが,多くの人はこれは両親の言語を真似ているに過ぎないと説く。

 だが最近の調査では,赤ん坊というのは生まれ落ちた直後から言葉を遊び(playhlg with language),言葉を自分を取り巻く環境を調査する方法として用い,自分が使うための言
葉を創造し,言葉の隠れたパターンを発見しているのであるということが証明されている。

 つまり,子供は物真似をしているだけではなく,何かを創り上げているのだという説である。

 これは後に述べる, creative speaking (私の造語)を支える原点思考というべきものである。

 できるだけ幼児期にネイティヴの英語を聞かせておくべきだと思うのである。文法より先にリズムである。そのリズムから自然に英文法が生まれてくるのである。その文法(grammar)を
法則として使えばリスクを冒すことになるが,そのリスク・テイキングにより,通じる英語を覚え,英語は試行錯誤を通じて自然に伸びていくのである。

 構造言語学者であるW. Nelson Francis ぱThe Revolution of Grammar” の中で,英語で意味を構成するには次の5つの要素があると主張する。

 1. Word order (語順)一man bites dog

  (これをdog bites man と語順を変えれば反対の意味になってしまう)

 2. Function words (機能語)-dog IS friend of mail, any dog is friend of that man

  (これで意味は機能的に限定される)

 3. Inflections C語形変化) dog loves the man,

  dogs loved the man

  (複数か単数か,現在か過去かが意味づけられる)

 4. Derivational sumχes(派生的接尾語)-the dog's friend arrives, the dog's friendly arrival

  (friendという名詞が形容詞にも副詞にも派生しうる)

 5. Juncture C連接)-a gray day, a grade A

  (「間」のとり方を間違えると,とんでもない意味になってしまう)

 なんと科学的な分析であろうか。もし構造言語学者の講義を受け続ければ,言語というものの科学分析は可能となろうが,果して英語が話せるだろうかと,ふと考えてしまう。英語文
法学者は,スピーキングに関する限り文法を知らないネイティヴの赤ん坊に勝てないのである。