幼児は使うために言葉を学ぶ

 

 新幹線の英語ではWe will soon arrive at Nagoya. だし・日航の機内放送も・We will soon make a stop at‥。という調すだが,外国の機内放送ではWe'll be ar-rivmg…と進行形に
なっている。 もしこのネイティヴ英語のリズムで放送されれば,グループ・ツアーの日本人全員は聞きとれないだろう。日航英語(抑揚のない日航の国際線の機内放送の英語をそう呼
ぶ)も日本人向けのリスク回避英語である。

 国際線の機内放送をテープにし,そのリズムの違いを研究され,社員教育に余念のない竹田正明氏(東急観光能力開発室長)は,「日航国際線の英語は20年間,変っていませんな。日
本人は進行形が使えない,教えない。だから聞きとれないのでしょう。日航以外の飛行機に乗ったら,日本人旅行者のヒアリングはもうお手上げ」と語られる。

 重点はヒアリングに移ったようだが,私が言いたいのはリズムを身につけるのもリスクをとるべきであるということだ。

 リスクが大きければ大きいほど英語は伸びるのである。

 最も高いリスクは,なんといってもspeakingである。だから,英会話はbaby talk から始めるべきだ。

 赤ん坊にとって言語を学ぶことは成長の過程である。

 ここで,私も読者と共に赤ん坊のような素直な気持で,言葉とはなにか考えてみようo.・     。

 すべての言葉は,次の4つの次元で論ぜられる。

すべての言葉は音と音の集合体である。


2. すべての言葉は,意味を持つ言葉や語群を作る音を集合させる。 walkとwalkedとでは単語は同じでも意味が違う。これらをmorpheme (形態素)と呼ぶ。(言葉は変化し,意味が変る
ということだ)

 3. すべての言葉は聞き手に意味が通じるように秩序よく並べられる。これがgrammar (文法)とsyntax(統語論)の役割である。(並べ方を間違うと意味が通じない)

 4.(意味のない言葉は役に立だないので)すべての言葉は,言葉に対する同意された(agrced40)意味を持つ。(appleと聞けば,ハハンと形が連想できるようでなくては
ならないということだ)

 ところが,赤ん坊はこの4点を自然に身につけるのである。

 子供は,言葉を学ぶために党えるのではなくて,使うために孛ぶのである。

 心理学者, Jerome Bruner 教授(ジョージ・ハーバート・ミート大学)ぱChild's Talk”(Norton)の119ページに次のように書いている。

 For whether human beings are lightly or heavily armorcd with innate capacities〕r leχicogrammatical language, they still have to learn how to use
language. That cannot be learned in vitro. The only way language use can be learned is by using 1t communicalively. The “ru!cs” of language use are only
lightly specified by the rules of grammar.

 (訳:というのは,生まれながらにして語彙や文法としての言語を駆使する能力をどの程度身につけているかは別として,やはり人間はいかに言語を使いこなすかを学習しなければら
ない。これは実験によって身につくものではない。言語を習得する唯一の方法は,コミュニケーションの場において言語を使用することである。言語を使用する際の「規則」は,わずか
に文法によって規定されるのみである)

 要するに,言葉というものは実際のコミュニケーシ三,ンの場面で使ってみなければ学べないもので,文法やルールは後回しという意味である。

 だから,繰り返し赤すのような気持にならねば外国語は習得できないと言い続けてきたのである。ここで言葉とは何かという考察もやめ,思考を捨て,言葉そのものに入りこもう。

『上級をめざす英会話』松本道弘著より