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10年分を1ヵ月でマスター

 

 さて,ここで読者も生後数カ月の赤ちゃんのような気持になっていただこう。

 生後三ヵ月のあなたは,腹が空いて,泣く。

 「ママがきたわよ。はいおっぱい」と母が近づいてふくよかな胸を出す。

 赤ん坊だから,まあむき出しのおっぱいなんてと,恥ずかしがらない。

 ただ,「ほら」というThere it is! (フランス語ならLavoh!イタリア語ならEccole!)という音と「お母さんよ」(Mama)という音のかたまりだけが記憶に残っている。

 このママというの払母親が子供に教え込んだものというより,赤ん坊が自然に覚えた言葉であろう。印欧語の母(mother)に対するcognates (同じ語源の語)を探してみると,次
のものをはじめとして音感的によく似通っている。

 英米の子供   mama

 フランスの子供 maman

 ドイツの子供  Mutti

 これらは赤ちゃんの母親との最初の接触の時に自然に出たsoundsであろう。

 生後1年以内の赤ん坊は,自分たちが触れたり,こわしたりすることのできる範囲内の言葉をまず覚えるものである。

 milk, do]1, shoe, car, dog等。こういう名詞はすべて自分が直接に関与できる言葉だ。

 中学1年の時,私は初めて英語の教科書に接したが,たしがTIふis a book.”調の内容だったと覚えている。直接に日常に使えるような内容ではなかったことは記憶している。

 その点,シドニーの移民者向けの英語の教科書は全く違っている。ある教科書を見せてもらったが,1ページ目は真っ白な世界の地図であった。なんのために使うのかと聞いてみたが
,ろくすっぽ英語も話せない人に自分たちの国を指さし,英語で発音させ,どのようにオーストラリアに渡ってきたのか,その過程を同じく英語で解説させるという。

 言葉を使ったところで「ああフィリピンね。The Phil。ippines」と先生が教える。まるで赤ちゃんにおっぱいを飲ませる母親ではないか。生徒はどんな英語を求めているのか,本人に
まず模索する努力をさせるのであるから,押しつけのための英語ではない。自分で探した英語だから,忘れない。そして使える。このように使用(use)を意識した英語教育であるから
,日本人なら10年かかってもできない英会話が1ヵ月ぐらいでできるようになるのであろう。

 さて2年目。 1年半から6年半の間に子供は言語をマスターすると信じるM. Susan Beck博士ぱBaby Talk”(Plume)の中で,2年目に入ると1語から2語の文章を覚えるようにな
ると主張される。以下,氏の観察を追っていくことにする。

 このあたりから,みなさんは√複数のsに気づき,-ingという進行形がわかり始める。文法的に意味論的に言葉を組み合わせることができる。童謡(nursery rllyme)が歌え
,アルファペットがすべて発言できる。 thが発音できなければdで間に合わせ, ThisがDisになり,thumbがsumbになる。だが通じる。

 とにかく赤ちゃんが2年目になると,1)時制がわかり,2)肯定と否定の違いがわかり, 3) sheとher, heとhimという代名詞に強くなり(itにはまだ弱いが),4)複数のsと所有の
sを名詞に加えることができるようになるというからすごい。

 中学2年目の私は,文法が入り,英語がきらいになり,香川という美人教師に放課後残され,補講を受けた。私以外にもう一人,結局私は英語ではクラス最低になった。私はもう一度
赤ちゃんになりたい。数年前,韓国の理髪店で,女理髪師に発音を教えてもらったが,私にねじりよるように,彼女の顔を私の顔に近づけ私の眼の前で,ソウラとSeoulの発音をしてくれ
た。彼女の舌の置き方は,英語のLと全く同じであった。教師からこんな近くに接近し,熱い息の聞こえる発音のレッスンは受けたことがなかったので,この調すてやりゃあ発音は巧く
なるわい,と思ったものだ。

『上級をめざす英会話』松本道弘著より