英語のスピード

 

 外国のテレビを観ていて感じることは,あれほど日本のことが毎日のように新聞を賑わし,週刊誌,本やテレビで紹介されるのに,日本人がテレビの画面に登場しないことである。ア
メリカで今話題の映画『ガン・ホー』に登場するアッサン(日産をもじったもの)の日本人社員たちもほとんど中国人俳優である。日本人で国際的に通用する英語を使える人はほとんど
皆無である。役所にもマスコミにもいない。少なくとも,外国のテレビで堂々と論陣を張った日本人をいまだかつて見たことがない。

 目立たないが,蟻のように黙々とゴツゴツ働き,稼ぎまくる日本人はさぞ不気味であろう。アメリカという蜂王国の巣のセグメントである自動車,カメラ,テレビ,半導体,最近では
,コンピューターや金融という聖域にも日本の蟻が進出し,市場を喰い荒らし,アメリカ蜂めコロニーを脅かし始めている。蜂の天敵は蟻だから彼らが日本を恐れるのも無理はないが,
蜂を馬鹿にすることはできない。蜂のコミュニケーシ。ンと情報のネットワーキングは蟻の及ぶところでない。たとえば,全米一の証券会社メリル・リンチと日本一の証券会社野村証券
(預り資産ではすでに世界一だが)と世界の金融市場で総合パワーを競い合えば,ほぽ互角だが,その差は英語だけではないかと思う。英語が話せるということは,英語が適用する世界
の金融市場で働く現地の人間を使いこなせるということである。英語が話せるとは,英語でマネージメントができるということだから恐ろしい。日本人も一所懸命英語を学び勝負してい
るが,ネイティヴと比べるとスピードが違う。スピードが違うということは,一定時間の中にそれだけ多くの情報を織り込むことができるということでもある。日本人の英語はどうもゆ
っくりすぎるので間延び感を与え,アメリカ人の聞き手を退屈させるという。多くの日本実業界の大物のようにスピーチだけは声高に原稿を棒読みするが,質疑応答となるとウーアーと
呻吟したり,通訳者に依頼せざるをえないとあっては,トップ同士の水入らずの秘密会談はできなくなる。それこそリズムが合わなくなる。

 アメリカの大学(高校でもほぼ同じ)のディベート選手には1分間で300/400語も喋る猛者がいるが,日本人の英語はせいぜい1分間で100語か120語ぐらいであろうから,情報の量でも
歯が立たない。

 しかも,その内容もピリオドとピリオドの間が短いパンチの効く英語ばかりだから,相手を心理的にも圧倒するという効果がある。 1分間といえば,大人がじっと息を殺せるくらい
短い時間だ。その1分間の英語の情報跫を次に示す。

『上級をめざす英会話』松本道弘著より