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身体から学ぶホワイ・ビコーズ体操

 

 アメリカ人に,日本文化を英語で伝える時に,私はよく次のような思い切った解説をする。環境を変える気構え

 古典英語でなきゃいやだという読者には,アーネスト・ヘミングウェイの“The old Man and the Sea” の冒頭文などが音読するにふさわしい教材になりそうだ。

 音読といってもこのパラグラフを英語で何度も読み上げたところで,何も得られない。

 有段者を目指す人は,英語のリズムを学ぶために,呼吸を整え,発声の練習をする。英語道1,2級の人(英検1級の実力者)なら, 3, 4回の息つぎで,1分以上かかる。それ以下の
人なら,呼吸法もよくないので,5,6回息をつぎ,時間も2,3分かかる。初段になれば, 2, 3回の息つぎで,40秒ぐらいで読み切る。

 私も時間を計ってみたが,1回の息つぎで(少し苦しかったが),しかも30秒で読み切れた。ということは,1分で300語近くのスピードで音読していることになる。ということは,英
語道初段が1分で200語(200WPM)であるから私のスピードにはついていけないということになる。だが私の自然の読書スピード(500~1000WPM)からすれば,ゆっくり過ぎるということ
になる。とくに,私は音読は速読の妨げになるという思想の持ち主であるだけに,音読の時間はできるだけ短くし,あとは黙読に切り換えることにしている。

 私はよくこんな方法を用いる。まず声を出し, TOOWPM, 200WPM, 300WPMとスピード・アップし,リズムに乗ると,テイク・オフ(離陸)し,あとは黙読でラクラクと1000WPM(瞬間風速
は2000WPMまでいく)のスピードで読む。ジェット機が飛ぶのと同じ要領である。

 英語のリズムに乗るまでは,少し時間がかかるが,いったんそのリズムに乗ると,不思議なもので,雲の上を飛んでいる飛行機のようにスイスイ読めるのである。

 だが,日本へ帰った直後の何日かは忙しく,ややもすると英語から遠ざかるので,すわ速読と急にハッスルしてもエンジンがにわかにかからないことがあったり,なかなか1000WPMどこ
ろか, 200WPMまでも飛べないことがある。もう齢かなと思うが,海外へ出るとむしろ感覚が戻る。あっという間に,1000WPM圜に達し,平均的アメリカ人より速く読めるし,日本語より英
語の方がラクになるから,環境というものは不思議な力を持つものだ。

 独習する人間は,自らの置かれた環境を変えてみせるというくらいの気構えが要る。あえて速目に話す

 さて,音読に戻る。誤解なきよう申し添えておくが,私は決して早口音読すればするほどいいとはいっていない。むしろ,す音や母音のルールを無視し,アメIJ力大学のディベーター
のように,マシンガンのようなスピードでまくしたてるのは,危険であるとさえ思っている。

 早大のある学生ディペーターが全米ディベー}大会決勝戦のディベートのテープ『ALC rこれがディベートだ』)から,1分間300~400語のスピードで話すチャンピオン・ディベータ
ーの話しぶりと呼吸法をそっくり真似したらしく,あまりにも日本人離れした英語を使っているのを耳にして戦慄を覚えた。

 アメリカの審査員と共に,日本人がこんなひどいディベート英語を使うべきでないと抗議したくらいだ。

 それ以来,私は反省を重ね,日本人はむしろイギリス英語から始め,イギリス人のディベートとその原点になるパブリック・スピーキングを学ぶべきだという考えに急傾斜し始めたの
だ。

 ではなぜ私が,かくも速いアメリカのディベートを聞かせたのか。

 それは,日本のテレビ,ラジオ講座で耳にしている英語がいかにお粥英語であるかということを英語学習者に知らせるためのシ日ック効果であったのだ。

 その結果は奏効した。スピード・アップする必要は認められた。私は必ずしもスピード・アップした英語を使えとはいっていない。だが,練習時においてはいくら速いスピードの英語
を真似ても真似しすぎることはないという考えを持っている。

 1分間300~400WPMのスピードでしゃべるアメリカのブロディペーターですら,彼らが選ぶ弁護士や政治家や宣教師となって,実際に使う英語は150~200WPMていどでかなりスローダウ
ンされたものだ。

 私も練習中は300WPMぐらいまでアップし,実際にアメリカ人と議論をする時でも200WPMぐらいに達し,聞いている日本人がついていかれないとこぼすことがある。だが,日本で話す時
は, 120~!50WPMとノーマルのスピードに落す。実戦英語合宿では120WPM (ネイティヴのノーマルより少し遅い)まで落すのでつらいが,企業向けの英語訓練では, 100 WPMを叨る時があ
るので呼吸が乱れ,肩が凝る。

 私が言いたいのは,英語のスピーキングを伸ばすには,日頃から少し速目にしゃべっておいて丁度いいくらいになるということである。

 ピアニストも練習時は,少し速目にキーを打つことによりリズム調整をするということだ。

 ヘミングウェーにもう一度挑戦してみよう。

『上級をめざす英会話』松本道弘著より