英語修行の原点

外人ハントから得るもの

 私の英会話修行はガイジンハントから始まった。外人ハンドこよりネイティヴの英語を学ぶことは自分がこれまで学んだ英語が使えるかどうかを実践の場で試すことである。

 背の立つ温水プールで学んだ泳ぎ方では,本当に泳げるのであろうかと思考を重ねたあげく,ようし背の立だない川へ飛び込むのだ,という心境であったから,外国人に近づくのが恐
ろしかった。

 ガイジンが本当にこわかったのである。

 質問に答えたガイジンの英語がちっともわからず,質問されるのが恐ろしくて途中下車したことや,英語で話しかけた相手の婦人が英語のわからないチェコの体操選手であったり,街
で話しかけたユダヤ人夫婦に善意ガイドし,夜は長良川の鵜飼い遊船としゃれこんがり,ヒアリング強化のために2人の外国人の側にくっついていると,「君はスパイか」と警戒された
り,九州の旅行先でハントした外国人家族連れと親しくなり過ぎた頃, Willyou leave us alone? (われわれ家族を水入らずにしてくれないか)と突き離されたり,挙げ句の果ては,
「あなたはキリスト教に関心があるというのはウソです」と米婦人宣教師から偽善者扱いにされたかと思えば,家族ぐるみで歓迎してもらい,『リーダーズ・ダイジェスト』やその他の
アメリカの雑誌をかけてもらうなど,まさに一喜一憂の繰り返したった。

 この外人ハンI・の習性は,私の英語修行の原点であるから,6段になった今も忘れてはいない。いや忘れてはならぬと思う。昨年の6月,ハーバード・ロー・スクールで弁護士を対象
とした交渉セミナーに参加した時乱専門知識の不足で落ちこぼれに近いあせりを経験したが,英語のスピーキングにおいてはセミナー中一度も不自由を感じたことはない。そのセミナー
の問催中のある日,ハーバード大学の校舎の近くにある,シェラトン・コマンダー・ホテルのレストランで,独りで食事をしていた。その時,隣の席で食事をしていた中年の夫婦のうち
の主人と目が合ってしまった。お互いがニッコリ笑った。哲くして,その男に話しかけると,サンコーの代理店で営業を担当している販売エイジェントであった。「どこから来られたの
か」と聞くと,「ワシントンからだ」というので,「もしワシントンへ行けば然るべきロビイス凵こ会わせてくれるか」と頼む。よろしいというので,ボストンを離れニューヨークへ移
った数日後仏その夫婦と電話連絡を絶やさず,2人を通じて商工会議所や日本大使館の然るべき人にアポをとってもらい,ついにロビイスト(前述の日系ロビイストであるウィリアム田
中)とのコネもついた。


 車でワシントンを案内してくれたその2人の夫婦が後にユダヤ人だとわかり,ユダヤ人の交渉哲学の臨時講義を受けることができるなど,僅か1泊のワシントン滞在が,実に付加価値
の高い経験となった。

 レストランで,一瞬視線があっただけでワシン1・ンヘ飛ぶことにし,そのお陰でアメリカ体験がより豊かになった。昔とった杵柄というべきか。それにしても,外人ハントのくせがま
だ抜け切っていないようだ。

『上級をめざす英会話』松本道弘著より