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最難関の司会

 

 スピーチは音楽であると私は言う。どちらも“流れ”(flOW)がなくてはならない。建築であれば,英語のスピーチも建築のごとく強固な骨組みがなくてはならない。

 だがそれは,古典音楽に限られる。アメリカにはジャズがあり,ブラジルにはサンバがあり,必ずしも音楽はstructureされない。

 その折衷のリズムが必要とされるのが英語による司会者の役目である。

 私は英語に関する限り,スピーチ,ドラマ,ディスカッシJン,ディベート,交渉,インタビュー,通訳(逐次通訳,同時通訳)などすべての分野に挑戦してきたが,その中でも最も難しい分野の一つが英語による司会である。

 自分がしゃべりたいことを他の出席者にしゃべらせ,他の人がしゃべりたくない時にしゃべるのが司会者の仕事だ,と私がI喝破する時,英語道場における400回を超える司会経験が語っているのである。

 英語道の精神と司会者の心構えに関しては,『将兵論』(たま出版)の併読をお願いしたいが,ここではリズムだけに絞って考えてみたい。

 英語道場では,あらゆるテーマをめくり主にディスカッション、時にはディペー}をやるが,司会者は大ざっぱなシナリオを予め作っておく。それは一種の楽譜であり,楽譜通り,会を引っぱっていかなければならないが,出席者はその流れには必ずしも忠実でない。司会者が直線的にdevelopしようとすれば,それを断ち切ろうとする。「線し」は連続であるが,「点」は断続である。

線と点は常に緊張関係にある。パブリック・スピーカーと聴衆の関係は,木剣を抜いたスピーカーと剣を鞘に収めたままの群集とのそれだから,司会者と参加者との関係は,両者が剣を抜いた状態なのでまさに真剣勝負に近くなる。お互いに相すの一挙一動が気になる状態だから,日本人同士でも緊張感が漂う。外国人の前で話す時よりも私は英語道場での司会をする時が最も緊張する。

 


ハーバード・ビジネス・スクールにて

 ところが,私が数年前ハーバード大学ビジネス・スクールのビジネスマン集中講座を2日間見学した時,マイヶル吉野教授という日本人の技を見て,縮み上がった。

 世界各地から集まったビジネスマン幹部を対象とした14週間のコースであったが,その時受けたショックは今も忘れられない。ハーバード・ビジネス・スクールという世界で最も恐れられる経営学道揚では,教授達の全てが勝負をしているのである。受講者があとで採点をするわけだから,教えるというより,高い受講料を払っている受講者と闘っているという感じであった。

 吉野教授は100名を超える各国の参加者と完全にコミュニケートしているではないか。流れるような英語でたえず激しいやりどりをし,教室内を左右に動き回りながらも、コントロールを失わないマイケル吉野教授はまさにオーケストラの指揮者そのものである。

『上級をめざす英会話』松本道弘著より