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脳の進化

 

 アメーバの偽足を針でついてやると、あたかも針の先をさけるように、偽足を別の方向へのばして逃げてゆく。刺激を受けいれ、それに反応して運動したのである。また、食物のとり
こみ、消化吸収、老廃物の排泄などの物質代謝も行なっている。

 アメーバは単細胞の動物であるから、これらの生命活動を、一つの細胞のむかで営んでいるわけであるが、細胞のなかに、それぞれの働きを分担する構造の分化はみられない。

 イソギンチャクのような多細胞の腔腸動物になると、刺激をうけいれる感覚細胞や、運動をする筋肉細胞と、分泌液をたす腺細胞が、構造的に分化していて、それぞれの働きを分担し
ている。感覚細胞を、刺激をうけいれるという意味で受容器といい、筋肉細胞と腺細胞を、効果を現わすという意味で効果器という。

 ところで、刺激に反応して運動や分泌がおこるためには、受容器と効果器がつながっていて。うけいれた刺激が、効果器へ伝えられなければならない。ここでは、受容器が刺激をうけ
いれると、一種の信号をだし、それが効里心器へ伝えられるというように理解していただきたい。介在細胞は、受容器からでる信号を伝えるという意味で伝導器ともいわれている。実は
、この介在細胞が神経細胞の原始型(原始ネウロン)である。

 クラゲなどでは、たくさんの介在細胞が、お互いに四方に突起をだしてからみあい、複雑な網状になって体中にひろがっている。これを神経網という。

 高等動物にはこのような網状構造はあるが、ただ接しているというだけで、お互いの間に原形質の連続はない。ところが、神経網の原始ネウロンでは原形質が連続している。

 また、高等動物の神経細胞の連鎖では、受容器からの信号は、一つの方向だけに伝わってゆくが、神経網では、あらゆる方向へひろがってゆく。そのうえ神経網には、全体を統率す中
心のようなものはない。従って、受容器からでる信号は、なんの修飾もうけず効果器へ伝わるから、刺激によっておこる運動反応は、うけた刺激の性質によって一義的にきまるわである
。従って、自由のきかない、刺激拘束的な反応である。

     プラナリヤ(扁形動物)や、(環形動物)になると、神経細胞が集って塊り(神経節)を作り、体の縦の方向にならんで、ジュズ状になっている

 このような体制では、感覚細胞から送りこまれた信号は、神経節のなかの神経細胞の複雑ながらみあいによって、按配され修飾されて、運動の命令となって筋肉へ送りだされる。こう
なると、もはや刺激拘束的な反応ではなくなり、目的にかなった巧妙な運動となって現われる。神経細胞の間のこのような微妙な仕組みを統合作用という。

 神経節のうちで、頭にあるものは形が大きいので、神経節連鎖の全体に対して、主導的な役割をしている。とはいっても、一つ一つの神経節は、それぞれ独立して、微妙な統合作用を
営むことができる。政治にたとえると、地方分権的な形態といえよう。

 タコやカイ(軟体動物)の神経系も、神経節の連鎖であるが、数がすくなく、脳神経節と足神経節と内臓神経節の三つに集約されている。このうちで、脳神経節はよく発達していて、
全体の統率力が強い。従って、刺激に対してより合目的的に反応し、ずっと適応した行動をすることができる。

 夕コの学習能力について。イギリスの生物学者のヤングとボイコットの有名な実験がある。夕Jを飼っている水槽にカニをいれてやると、タコは直ちにカニを捕えて巣にもちかえる習
性がある。そこで、カニとならべて白い金属板をおき、タコがこの金属板にふれると、強い電撃がかかるように仕掛けておく。

 最初は電撃がかかることを知らないから、カニを捕えようとして金属板にふれ、強い電撃をうける。そこで、夕Jはカニをそのままにして巣に逃げ加える。二回目には、金属板にふな
いようにしてカニを捕えにかかるが、また金属板にふれて電撃をうける。こんなことを几四回くりかえすと、夕Jはカニをいれてやっても、捕えに巣からでてこなくなる。つまり、夕J
は、ふれると電撃にかかることを覚えたのである。そこで、あらかじめ脳神経節をこわしておくと、学習ができなくなるから、この能力は、脳神経節に具かっていることがわかる。

 昆虫やエビ(節足動物)では、頭によく発達した神経節があって、全体の統率が一層強くなっている。ファ、ブル(J. H. Fabre)が、『昆虫記』で詳しく観察している昆虫の
巧妙な行動、ミツバチなどのすばらしい学習能力は、頭にある神経節の微妙な統合作用によるものである。

 『昆虫記』にこんな観察がかいてある。アナバチは、キリキリスモドキの神経節を針で刺して動けなくし、これに産卵して、自分が掘った穴にいれて、入口をふさぐ習性をもっている
。こころみに、アナバチがふさいでいる入口の壁をこわして、なかのキリギリスをとりだしてみる。すると、アナバチは穴のなかにはいって様すをうかがっているが、やがてでてきて、
また入口をふさぎはじめる。なかに産卵したキリギリスがいようがいまいがそんなことはおかまいなしで、ひとたび始めた行動は、途中で状況がどんなに変っても、はじめの筋書きどお
りにやりとげる。頭にある神経節によって、このようにきわめて合目的的な行動はするが、状況の変化に対処すること(適応行動)ができない。融通のきかない紋切り型(ステレオタイ
プ)の行動(本能的行動)である。

 しかし、昆虫などの胸や腹の神経節にも、かなりの程度の統合作用が具わっている。たとえばカマドリの頭を切りおとしてさわると頭があるカマキリと同じようにカマをたててくる。