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中央集権の神経系

 

     ところで、脊椎動物になると、神経系の形式が根本的にかわってくる。第一の違いは、神経節が神経細胞の塊りであるのに対して、脳と脊髄は、中心に穴が通っている管の形
式である。第二の違いは、神経節の連鎖は、消化管の腹側にあるのに対して(腹髄という)、脳脊髄は、消化管の背側(脊髄という)にあることである。

 一番簡単な脳脊髄は、ナメクジウオ(原索動物)にみられる。しかし、脳に相当する部分は、穴がややひろくなっている程度であって、脳と脊髄の区別はないといってょい。

 ところが、脊椎ができてくると、一番下等な円口類ヤツメウナギ)でも、すでに脳と脊髄のぽ別がはっきりしており、脳の構成は動物のそれと本質的には同じである。そして、魚類
↓両生類↓爬虫類↓鳥類↓哺乳類と進化するにつれて、脳の構造がますます複雑になり、進化発達する。

 人間の脊髄の重さは、二五グラムで、脳の重さの二%である。ところが、下等な動物ほど、この ゛比が大きいひたとえば、ゴリラ六%、ブルドッグニ三%、ウマ四〇%、ウサギ四六
%、ニワトリ五一%、タラ一○○%である。

 このように、脳が発達してくると、それにつれて、脊髄の比重が小さくなり、脊髄に具わっている統合作用が脳へ移ってゆく。そして、脊髄は脳へ送る感覚の信号と・、脳からでる運
動の命令の通路、すなわち、感覚神経と運動神経の束のような性質が強くなる。 Steinerは、「神経作用頭端移動の法則」とよんだ。

 一方、脳では、統合作用はますます複雑、微妙、精緻になり、統率力は一段と強くなり、高級な学習能力も具わってくる。その結果、反応は刺激拘束的、紋切り型の性質がなくなって
、理性や自由意志などで操られる適応行動として現われるようになる。こうなってはじめて、脳に具わる働きを、精神あるいは心の働きということができるわけである。

 とはいっても、人間の脊髄に統合作用が全くないわけではない。特に、サカナやカエルなどの脊髄には、なお巧妙な統合作用が残っている。たとえば、キンギヨの脳と脊髄の間を切は
なしても、脳のあるものとほとんどその行動はかわらない。また、カエルの脳を切りとって、脊髄だけのカエルでも、背中に酢酸溶液にひたした紙片をはりつけると、あたかも脳がある
ように、後肢や前肢を巧みに動かして、刺激性の紙片を払いおとしてしまう。

 これが。ウサギやネコになると、こんな巧妙なダイナミックな運動はおこらない。人間では、運動どころか、生命が危険になってくる。このようなわけで、人間のように、脳が非常に
発達した神経系は、中央集権的な政治形態にたとえることができよう。

 神経系は、信号や命令を伝える伝導器であるから、できるだけはやく伝えることが望ましい。

 信号の速さは、信号を伝える神経線維の性質によって非常に違う。また、神経細胞同士が接着している揚所(シナプス)では、信号や命令が伝わるのに時間がかかるから、シナプス
すくない方が、都合がよい。しかし一方では、微妙な統合作用は、神経細胞の複雑ながらみあいによってはじめて可能である。

 すると、信号や命令をはやく伝え、しかも微妙な統合作用が営まれるためには、神経線維は、できるだけはやく伝える性質であることが望ましいわけである。実際に、イソギンチャの
神経網では、信号は毎秒一片の速度で伝わるが、高等な動物は、一秒間に以上の速度で伝える神経線維をもっている。

 化石人類の脳 ところで、私たち人類は、何万年にわたる進化の道をたどって現在にいたったことは、世界のあちこちで発掘されている化石がはっきり物語っている。

 骨格の進化と平行して、脳の構造と働きも進化したはずである。しかし、化石人類の脳そのものについては、現在知るよし心ないが、脳をおさめている頭の骨の形や容積から、脳の形
や大きさを推測することができ、それによって、脳の進化の跡もたどれないこともなかろう。

 一番古い人類の祖先は、一九二四年に、南アフリカで発掘されたアウストラロピテクスである。この脳容積は平均五五〇ccで、類人猿の脳容積の四五〇ccに比べると、わずかしか違わ
ない。

 アウストラロピテクスは、今から約七十万年前に生存していたと推定されているが、それにつぐ古代人類は、一八九〇年に、ジャワで発掘されたジャワ原人ピテカントロプス、エレ
クトス)である。約五す万年前に生存していたもので、脳容積は、一躍九〇〇ccにましている。

 ジャワ原人からすこしおくれて生存していたのが、ペキン原人(シナントロプス、ペキネンシス)であって、一九二七年に、北京郊外の周囗店で発掘されたもので、脳容積は、ジャワ
原人よりすこし大きく1000ccである。

 これにつぐものは、約二す万年前に生存していたネアンデルタール人である。この脳容積は六〇〇ccで、現代人の一四五〇四に比べると、まさるとも劣らないような大きな脳をもって
いたと考えられる。

 南フランスで、クロマニオンとよばれている化石現代人がたくさん発掘されている。一万五千年から五万年以前に生存していたものであるが、脳容積は現代人とすこしも違わない。

 このように、進化と共に、脳容積もましているが、同時にまた、脳の形も変化している。古代人類では、脳の前方部(前頭葉)が類人猿のように、そぎとられてあまりよく発達してい
ないし、側頭葉の領域も、現代人ほど発達していないようである。

 現代人の頭骨の内面をみると。前頭葉や側頭葉にあたる底面には凹凸がある。これは、その領域の脳が、まだ発達しつつある状態を示しているという。ところが、ジャワ原人の頭骨を
みると、サルなどと同じように、天井にあたる場所に凹凸がある。従って、頭頂葉が発達の途中であって、前頭葉や側頭葉はまだ発達がはじまっていないという。

 人間の脳は、生後、どんどん大きくなってゆく。そこで、古代人類の脳が、何歳の人間の脳の重さに相当するか調べてみると、生後一ヵ月がサルの脳の重さに相当し、三ヵ月がアウス
トラロピテクスの脳に、す一ヵ月がジャワ原人の脳に二歳の幼児の脳がペキン原人の脳に、す歳の少年の脳が、ネアンデルタ、ル人の脳の重さに相当する。この対応から直ちに、ペキン
原人は三歳の幼児の知能をもっていたと結論することはできないが、脳の進化を考える揚合に、示唆にとんだ材料を提供しているようである。。