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脳の発達

 

 生れたばかりの赤ん坊は、頭でっかちで四頭身。しかし、みるみるうちにスマ、トになって八頭身といけば理想的であるが、私たち日本人では、せいぜい六・五頭身から七・五頭身と
いったところである。 ということは、人間の脳は、胎児のうちに、身体のぽかの部分に比べて、よりよく発達していることを示している。いったい、私たちの脳は、どんな経過をたど
ってできあがってゆくのだろうか。

 受構卵は、細胞分裂をくりかえして、まず外胚葉、中胚葉、内胚葉にわかれる。そして、内胚葉からは消化器と呼吸器が、中胚葉からは骨と筋肉と結合組織が、外胚葉からは上皮と感
覚器と神経系ができてくる。

 そこで、神経系ができあがってゆく経過をみよう。まず、胚体の背面の正中線に沿って、外胚葉の一部が厚くなり(神経板)、そのうちに、管の形になって、なかにおちこんで神経管
ができる。この神経管が、脳と脊髄の原基であって、前方部が太くなって脳管になり、残りの部分は脊髄管になる。神経管のなかの腔所は、いつまでも残っており、脳では脳室に、脊髄
では中心管になって物質代謝を司る脳脊髄液がなかに満たされている。

 太くなった脳管に、前脳胞、中脳胞、菱形脳胞の三つのふくらみが現われ、そのうちに、前脳胞の背面と腹面に、左右各一対の高まりができる(図10)。腹面の高まりは網膜と視神経
になり、背面の高まりは終脳に発達する。高まり以外の部分は、間脳になる。

 終脳は、左右の大脳半球であって、表面は非常にたくさんの神経細胞が密集している大脳皮質でつつまれている。

 間脳は、左右の大脳半球を腹側から結びつけた形をしており、腹側部が突出して下垂体(後葉)にたり、背側部からは松果体ができる。

 中脳胞から中脳ができるが、脳の発達の経過のうちで、一番変化のすくない部分で、完成した脳でも、もとの管状の構造をしている。

 中脳胞につづく菱形脳胞は、後脳と末脳にわかれてくる。中脳につづく後脳は、橋と小脳に分化し、末脳は延髄になる。延髄の下に、脊髄管から発達した脊髄がつづいている。

 ところで、人間の脳管が、けじめの管状の形のままで分化発達してゆくと、縦に細長い脳になって、七福神寿老人のような頭になるだろう。これでは、二本足でたって行動するには
、きわめて不安定である。そこで、安定性をうるために、発達の初期に、脳管が間脳の朧側部にある視床下部のところで、折れまかってくる。匍匐動物の脳に比べて、人間の脳の構成が
こみいっているのは、折りまがりによって変形したためである。

 人間の脳の構成を複雑にしている、もう一つの原因がある。それは、左右の大脳半球をつなぐ神経線維の東(脳梁)が非常によく発達していることである。このために、脳の内部の各
部分の位置や排列が、下等な動物の脳に比べると、かなり狂ってきている。

 ひとくちに大脳皮質というべ実は、構造も働きも非常に違っている三つの部分、すなわち、新皮質。古皮質、旧皮質からできているのである(斗参照)。古皮質と旧皮質は、系統発生
的にみて、はやくから発達している皮質であるが、同時にまた、個体発生的にみて心、その発達ははやい。古皮質や旧皮質は、けじめは表面にでていたのであるが、新皮質がどんどん発
達してきたために、大脳半球の底面平内側面に押しやられたり、なかにつつみかくされてしまう。従って、完成した人間の大脳半球で、外からみえるところ・はすべて新皮質である。

 なお、人間の胎児の脳の発育の状況を示してある。

 神経管の細胞が盛んに分裂して、脳と脊髄を組立てるのであるが、二種類の細胞にわかれてゆく。神経細胞とグリア細胞である。数はグリア細胞の方がずっと多いが、精神の働きに直
接に関係しているものは神経細胞である。グリア細胞は、神経細胞の物質代謝の役目をひきうけているので、脳の働きを考える揚合に、間接的ではあるが、その役割はきわめて大きい。

 胎児の脳は、以上のような経過をたどって発育し、一応の形をととのえて生れてくるのであるが、しかし、生れたときの脳は、どの動物の脳よりも未完成である。スイスの動物学者ル
トマンの言葉をかりると、脳に関する限り、人間は生理的早産である。従って、生れてからの発達が約束されているわけであり、このことは、人間形成にとってきわめて大切なことであ
る。

生れたときの赤ん坊の脳の重さは、三七〇-四〇〇グラムで、男女でほとんど違いがなこの重さは、休重の約一〇%であって、大人の脳が体重の二・二%に比べると、頭でっかちである

 生後の脳の発達の速度は、スキャンモンの生長曲線が示すように、身体のほかの部分より、ずっとはやい。一六ヵ月で、生れたときの重さの二倍になり、七、八歳で、大人の重さの九
〇%に達する。あとはゆっくり成長してゆく。

 生後一年までは、男女で重さの違いはぽとんどないが、以後、男の方が重くなってゆく。

 二十歳で完成した男の脳は、五十歳ころまで、重さはあまり変らないが、以後ごくわずかずつ軽くなる傾向がみえ、六十歳を過ぎると、減少が目だってくる。これに対して、す八、九
歳で完成した女の脳は、以後すこし軽くなるが、五す歳のあたりでかえって重くなってくる。その後は、男よりも数年おくれて軽くなってゆく。このように、女の脳は、三、四十歳あた
りでなかだるみになるのであるが、理由はわからない。

 ところで、脳を組立てている神経細胞、すなわち脳細胞は、生れたときに、数だけはちゃんとでそろっており、大脳皮質には、エコノモとコスキナスの推算によると、百四十億の脳細
胞があるという。生れてからは、脳細胞の数はふえないし、また、こわれても決して再生しない。

 生れたときの脳細胞は、数だけは大人の脳細胞と同じであるが、まだ働いていない。成長するにつれて、たくさんの樹状突起をのばして、まわりの脳細胞とがらみあい、また、神経線
維に髄鞘ができてきて、はじめて脳細胞が働きだすのである。人間の大脳皮質で、手の筋肉へ運動の命令をだす領域(運動野)の脳細胞のからみあいが、成長と共にふえてゆく状況を示
したものであり、Bは、そこの一つの脳細胞(錐体細胞)の樹状突起の発達の模様を示したものである。

 神経線維に髄靹ができる状況をみると、脳の部位によって非常に違う。脳幹とふ脳が一番はやく、大脳皮質はずっとおくれる。大脳皮質のなかでも、場所によってかなり違い、番号の
ふさいものほど、はやく髄鞘ができている。運動や感覚を司る場所では、髄鞘がはやくできて働きがはやくおこるが、高等な精神が営まれる連合野では、髄鞘のでき方がおそい。特に、
前頭葉と側頭葉は一番おそく、一生かかっても、まだ完成されないともいかれている。もっとも、このような生後の発達は、新皮質についてであって、古皮質や旧皮質の脳細胞は、新皮
質よりもずっとはやく発達していることが、形態学的にも、生理学的にもたしかめられている。

 老年になると脳が軽くなるが(九す歳で約一〇%減少)、脳細胞が萎縮してくるためである。細胞のなかの構造も変化し、樹状突起も変形してきて、正常な働きができなくなる。大脳
皮質がちぢまるために表面のシワがはっきりしてき、特に、前頭葉のあたりがいちじるしいという。

     脳の重さは平均値であって、人によってかなり違う。よく脳は重いほど、知能が発達しているという。