ネフロン

 

 私たちの身体で、天文学的数字を求めるとすれば、身体全体を組立てている細胞の数であろう。約三十兆といわれている。                       ‘

 それに比べると、脳を組立てている細胞の数は、足もとによれない。それでも、精神の座、大脳皮質にある一四〇億の神経細胞は、世界の人口の約五倍である。そのほかに、それより
もずっと数の多い(約五倍)グリア細胞があるから、全部あわせると相当の数になる。

 ネコの大脳皮質をゴルジ法で染めたものである。この染色法は、全部の神経細胞の十分の一ほどしか染めださないが、それにしても、大小さまざまの神経細胞の複雑ながらみあいは実
にすばらしい。

 神経細胞は、す九世紀のはじめに発見されたのであるが、その当時は、お互いに突起によって連続した一つのものと考えられていた(網状説)。これに対してカハールは、ゴルジが考
案したクロ、ル銀による鍍銀染色法を駆使して丹念に調べ、お互いの神経細胞の間には原形質の連続はなく、ただ突起によって接着しているだけであると主張した。つまり、一つ一つの
神経細胞は、構成の単位として独立しているというのである。

 ワルダイェル(W. G. Waldeyer)は、この単位をネフロンと名づけたので、カハールの主張をネフロン説という。現在、この考えに疑いをもつ心のはなく、ネフロンは、形
態的の単位だけでなく、働きのうえでも、栄養の而でも単位として振舞ってい

 ネフロンの形、大きさは種、さまざまであるが、基本形は、細胞体(普通これを神経細胞という)とそれからでる長短いろいろの突起である。ネフロンは、突起によってほかのネウロ
ンと接着し、複雑ながらみあいを作って、神経系を組立てている。この接着する場所をシナプスというが、シナプスを通って、ネフロンの連鎖を次から次へ伝わってゆく信号の流れが、
とりも直さず脳の働きであり、私たちの心の姿である。