臨床脳波

 

 脳の働きに異常がおこると、それに対応して、異常な脳波パタンが現われてくる。

  これを手掛りにして、病気の診断や治療の目的に活用するのを、臨床脳波という。

 異常な脳波パタンの主なものは、

  一  a波のサイクルや振幅の減少

  二 左右の対称点における脳波パタンの非対称性

  三 ある部位における脳波の位相の急激なすれ

  四 発作波(棘波、鋭波、棘・徐波、棘・徐複合など)の散発的または連続的な出現

 一の場合は、脳炎、一酸化炭素中毒、睡眠薬中毒のときに現われ、大脳皮質全体の活動性の低下した状態である。ことに三の場合は、非対称、位相のずれの部位に限局した異常がある
ときで、脳腫傷、脳外傷の部位決定に利用される。四の場合は、テンカンに伴う異常脳波であって、図33のように、テンカンの種類によって、それぞれ特有な異常波が現われる。

 そのほか、他覚的聴力検査法、閃光による視覚系機能検査法、麻酔深度自動調節法、精神疲労判定法など、いろいろな応用が考えられており、また、無線電送による脳波の遠隔記録に
よって、宇宙飛行中の意識状態の研究にも利用されている。

 また、脳波を構成周波数の帯域に分析してパタンの変化を調べたり、あるいは、脳波曲線を分析して自己相関や相互相関を求める研究も行なわれている。

 ところで、正常脳波はもちろんのこと、異常脳波についても、その発現の仕組みは、たくさんの研究があるにもかかわらず、まだはっきりしていない。

 脳波の構成要素は、おそらく脳細胞のスパイク電位ではなく、ゆっくりした経過をとるシナプス電位であろう。しかし一方では、スパイク電位と脳波との同時記録によって、両者の関
係が調べられている。低振幅速波のときは、一つ一つの脳細胞がだすスパイク電位は同期していないが、テンカンの発作波では。いちじるしい同期がみられる。その中間のものは、a波
のパタンのときであるという。それはともかくとして、では、なぜ同期したり、同期しなかったりするのか。また、同期、非同期が、意識の水準や精神活動とどんな仕組みで関係してい
るのか。重要な問題であるだけに、今後の研究が期待される。