脳定位固定装置

 

 脳のなかの旧皮質、古皮質やいろいろな核に電極をいれて、電気刺激をしたり、脳波を記録したり、あるいは化学物質を注入したり、破壊したりするために考案されたのが、脳定位固
定装置である。いわば、化学実験における天秤、組織学研究における顕微鏡のようなものであって、この装置が考案されたので、脳の研究が画期的に発展したことは、さきにしばしば述
べたことである。

 この装置は、一九〇八年に、イギリスの外科医ホースレーが、サルやネの小脳の核を破壊して、運動におよぼす影響をみるために、クラ、クと協力して工夫したもので、二人の名前をとって、ホースレー・クラークの装置ともよばれている。

 サルやネコの脳の形や大きさは、個体差が案外すくない。そこで、頭をあらかじめ定められた方式で固定すれば、脳の内部の皮質辛核の位置中神経線維の走行は、三次元の座標点とし
てあらわすことができる。従って、あらかじめ脳の座標図を作っておけば、これをたよりに、脳のなかの任意の場所に操作が加えられるわけである。これが、この装置の原理である。

 現在、いろいろの改良型が作られており、日本では、東大脳研型(図34)が普及している。この装置は、サル、ネコ、イヌのほかに、補助装置を使って、ウサギ、ネズミも固定できる
万能型である。

 脳座標図も、サル、イヌ、ウサギ、ネズミ用のものが作られている。ネズミの脳座標図の一つである。

 同時に脳波を記録しながら動物の行動を観察したり、脳の内部の核を刺激して行動の変化を観察する研究が、最近盛んに行なわれている。この揚合にも、あらかじめ定位固定装置を使
って、電極をいれた動物が使われている。

 近年、治療も診断の目的で、人間の脳の内部の核や神経線維に操作を加えるために、人間の脳の定位固定装置が工夫されている。現在、この装置を使って、人間の深部脳波が記録さて
いるし、治療の目的で、皮質下の核を破壊する手術が行なわれている。楢林式の固定装置が有名である。

 なお、定位固定装置を使って人間の脳の内部に操作を加える場合には、同時に脳室に空気をいれ、X線撮影で脳室の位置をうつしだし、それを手掛りにして、より正確に電極の位置を
きめている。