群集欲の仕組み

 

     最後に、群集欲であるが、飲、食の行動や性行動をより能率的に営むために、欠くことのできない欲求の心である。動物はもちろんのこと、私たち人間も、家庭、団体、社会
、国家、民族といったように、形式や規模は違うが、お互いに相寄り集って集団生活をしている。言葉が同じだとか、皮膚の色が同じだとかいうことが理由ではない。お互いに、群巣欲
という本能的な心をもっているからである。

 この欲求の仕組みについては、まだはっきり証明されていない。おそらく、ほかの欲求の心と同じように、視床下部と大脳辺縁系で形成され、発現されているのであろう。

 たとえば、ネコの視床下部の後部(乳頭視床路と脳弓との間)を剩激すると、相手に近よる行動をおこすという中尾の実験は、あるいは、群集欲を形成するイングルスの発現と関係が
あるのかもしれない。また、大脳辺縁系を破壊すると、動物の社会行動に変化があらわれるという観察も、群集欲の形成の場が、大脳辺縁系にあるように思わせないこともない。

 これまでの脳の研究で、群集欲の生理学的仕組みととりくんだ実験はほとんど行なわれていない。問題のむずかしさ、実験の困難さにもよることであろうが、あまりにもないがしろに
されていたのではなかろうか。最近、心ある人、によって、集団における動物行動の実験的研究、すなわち実験行動学に関心がもたれてきているのはよろこばしいことである。将来の発
展をおおいに期待したい。

 なお、このほかに、雌の動物が子供を哺育することも、本能的行動の一つである。おそらく、女性ホルモンによって発動され、大脳辺縁系で形成、発現されるのであろう。雌ネズミの
両側の前帯状回(大脳辺縁系の中間皮質)をこわすと。すネズミを育てなくなるという観察があるが、哺育本能の形成の揚が、大脳辺縁系にあるのではないかと想像させる一つの材料で
ある。