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自律神経系の働き

 

     内臓器官の働きは、二重支配している交感神経と副交感神経の拮抗的な働きかけによって統御されているというのが一般の通念である。実際に、心臓に分布する交感

     神経が興奮すると、心臓の収縮力がまし、拍動がはやくなり、血圧があがる。反対に、副交感神経(迷走神経)が興奮すると、心臓の働きが抑えられる。

 しかし、自律神経系の組立てやそのほかの現象から考えると、実相はそうではない。自律神経系の活動の基調は副交感神経系であって、交感神経系の働きは、むしろアクセント的な役
割である。すなわち、内臓器官の基本的な統率は、副交感神経系によって営まれており、必要に応じて、全体的に働きを高めたり低めたりする場合に、はじめて交感神経系が参加してく
るのである。乗馬にたとえると、手綱が副交感神経系の統御であり、ムチが交感神経系のアクセントづけである。

 このように考えると、交感神経はなくても生きてゆけるが、副交感神経の働きがなくなるとすこやかには生きてゆけない。実際、キャノンは、交感神経を全部とったイヌを、長く生か
しておくことに成功している。

 とはいっても、副交感神経系だけでは、静かな平和な環境にだけしか生活できない。社会の荒波にもまれる現実の生活になると、たえす、交感神経によるムチ打ちが必要になってくる
のである。

 私たちは、動物を実験に使う場合に、「生きがよい」とか「生きかかるい」とよくいう。この「生き」は、副交感神経系の活動性のことである。人間には、「生き」という言葉は使え
ないが、「生気にあふれる」とか「活力」という去現がこれにあたるのであろう。

 末梢に二つの系統があるから、中枢の視床下部にも、当然、交感神経と副交感神経に対応する領域が区分されてもよいはずである。この研究は、アメリカの解剖学者ランソン一派によ
ってはじめられ、スイスの生理学者ヘスの詳しい刺激実験によって集大成されている。ヘスは、視床下部の的部は副交感神経性の反応をおこす領域、後部は交感神経性の反応をおこす領
域であることをたしかめ、前者を向栄養帯とよび、後者を向勢力帯とよんだ。このように、視床下部を前後に区分する考えは一般にみとめられているが、黒津のいうように、内側は副交
感神経の中枢、その外側は交感中枢帯、もっと外側は副交感帯の三つの帯状の領域にぼ分されているという異論もある。