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眠り、夢みる脳

 

 第二次大戦中、アメリカで、数百人の兵士が参加した大がかりの断眠の実験が行なわれた。

 断眠二、三日目から、いらいらしたり、記憶がわるくなったり。ひどい錯覚や幻覚がおこったりして、四日目ころには、ほとんどの者が脱落してしまったという。断眠八日と八時間で
、まさに超人的である。

 実験がおわってから構密検査をしたところ、精神状態はへんになっていても、身体にはどこも異常はなかったという。しかし、精神状態の異常は、ひと晩ぐっすり眠るとすっかり回復
したが、二人だけは、数年間精神の異常に苦しんだということである。

 断眠は、肉体にはほとんど影響をお上ぼさないが、脳にはかなりの障害をおこすことが、この実験ではっきり証明されている。すると。中国やフランスで、昔、死刑や拷問に断眠を使
っていたというのも、まんざら嘘ではなさそうである。眠る欲求 眠りは、呼吸率食欲や性欲と同じように、どうしてもかなえなければならない本能的な欲求である。

 頭が疲れたから眠るのだ、脳の疲労を回復するために眠るのだ、ということをよくきく。しかしこの表現は、およそ眠りの本質をついていない。眠りとは、脳細胞がいつでも活発に働
きうる態勢にととのえるための準備工作である。腹がへったからたべるのではなく、肉体を健康 に保ち、身体活動するために私たちはたべるのである。これと同じように、脳を健康に
保ち、明敏な精神活動をするために私たちは眠るのである。

 従って、どんな動物でも、脳をもっておれば必す眠る。動物のなかには、全然眠らないものがいるということで議論されていたが、脳波を使って調べてみると、脳をめった動物は必ず
眠っている。ただし、眠るときの姿勢や眠る時間は、動物の種類によって非常にまちまちであるが。

 赤ん坊は、眠りと目ざめの交代が不規則であるうえに、眠る時問も長い。生後六ヵ月で、十七時間眠っている。年齢がすすむにつれて、まとめて眠るようになり、眠る時間も次第に短
くなる。そして、大人では、夜まとめて、平均七・五時間眠っている。次の表は、年齢による眠りの時間の違いを平均的に示したものである。

 眠る時間は、人によって非常に違う。四、五時間で眠りたりている短眠家がいるかと思うと、す時間眠っても、まだ眠りたりないという人もいる。結局、必要な眠りは、眠る時間と眠
る深さから求めた眠りの量である。この量がある値になると、眠りたりて自然に目ざめてくる仕組みになっている。

 一日に七・五~八時間眠っていた人を、四十八時間のスケジュールに組み加えて生活させると、十二時間の眠りでことたりるという。また、断眠実験のあと、す音なだけ眠らせると、
十四時間の眠りですっかり回復するという。このような実験の結果から、正常な脳は、熟睡すると、十五時間以上は眠れないようにたっており、また、最初の数時間で、必要な眠りがと
られているといわれている。

 昔から。いろいろな方法で調べられているが、眠りの深さを正確に測ることはむつかしい。しかし近年になって、意識の水準を客観的に示してくれる脳波や、身体の生理現象の変化(
脈拍、血圧、呼吸、体温、身体の動き、眼球の動き、皮膚電気反射など)を同時に記録する方法(ポリグラフの方法)によって、眠りの深さをかなりはっきりつかむことができるように
なった。

 眠っている間の眠りの深さは、決して一様ではない。人によって非常に違っているが、二つの型に大別できる。第一の型は、ねついて、一時間目のころに眠りが一番深くなり、以後、
次第に浅くなって目がさめる宵型である。第二の型は、朝近くになったところで、眠りが深くなる朝型である。そして第三の型は、両者の中間の型である。しかし、この型は、時と場合
によって変り、きまっていない。なお、全般的にいって、宵型の方が、より健康的な眠りといえよう。