長文-一万五〇〇〇字

 

「一万五〇〇〇字」は、一行四〇字で三〇〇~四〇〇行程度、四〇〇字詰めの原稿用紙では、三〇~四〇枚である。

 これは、本格的な論文や報告書の長さだ。あるメッセージをさまざまな観点から述べられる。問題点の指摘だけでは不十分で、答えを書く必要、がある。この長さなら、違う意見を紹介し、それと比較して自分の主張がどう違うかなども書ける。

 「序論・本論・結論」などの構成が必要になるのは、この段階の文章である(短文でもこうした構成があってもよいが、随想的なものではあまり意識しなくてもよい)。

 なお、すでに述べたように、本書の「章」は、分量的には長文の長さであるが、「序論・本論・結論」などの構成をとっておらず、単なる短文の集まりである。

 中間の長さは書きにくい

 以上で述べたように、内容もスタイルも、字数によって規定される。最初に字数の制約があり、それに応じた文章を書く必要がある。

(2)一形式面の構成

 これを発見したのは、『週刊ダイヤモンド』誌連載のエッセイを始めてからだ。私の連載は、一回四〇〇〇字。雑誌では見開きになる。これは非常に書きにくい。なぜ書きにくいのかが、最初はわがらなかった。

 普通のエッセイのように、問題提起だけをして終わるには長すぎる。かといって、腰をすえて答えを書くには短すぎるのである。このため、書き始めたものの対岸まで泳ぎ着かない、あるいは逆に論じ終わらずに紙面が尽きてしまう、といった事態が頻発した。また、ストーリー(骨組み)が二つに分かれてしまうことも多かった。こうなる理由は、四〇〇〇字が短文の三倍であり、長文の三分の一だからだ。「基本形の半分から倍」という範囲におさまっていないのである。

 この長さに慣れたのは、一年くらいたってからだ。そして、「このメッセージならちょうど書ける」という感覚をつかめるようになった。いまでは、四〇〇〇字で一つのストーリーを過不足なく書ける。

長文章法:野口悠紀雄著より