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口頭伝達ではもっと難しい

 

 文章なら読み返すことができる。しかし、口頭伝達では、それができない。このため、聞き手は全体の構造を把握できないことが多い。

 対話の場合には、聞き手はわからないところで質問できる。しかし、講義や講演では、質問しづらい。したがって話し手としては、「部分と全体との関係」をつねに明確に示すことが必要だ。

 アメリカ人は、このための工夫をかなり念入りにすっている。政治家がスピーチするときには、とくにそうだ。I have three points. Number one・・・ Number two・・・ Numberthree・・・というような話し方をする。演説のようなあらたまった場合だけでなく、日常会話でも用いている。これは、口語における箇条書き方式と言えるだろう。

 私は、講演の際には、全体の概要を示すレジメを配ることにしている。そして、話の途中で、現在どこにいるかを注意する。ある部分が終わったら、その要旨を繰り返し述べ、つぎに話がどのように発展するかを予告する。

 講演やプレゼンテーションで、パワーポイントを使う人が増えてきた。しかし、スクリーンに複雑な統計資料などを示されても、聴き手は当惑するだけである。もっと重要なのは、全体の目次だ。それを話の途中で随時見せるほうがよい(この程度の情報を示すには、パワーポイントを使う必要はなく、紙を一枚配れば十分である。聴衆が随時参照できる点では、このほうが便利だ)。

第5章 化粧する(1)  わかりにくい文章と闘うながながしき Number one

 ある通訳の人に聞いた話だが、講演するときに、I have three points 方式をよく使う有名な米国の経済学者がいる。 ところが、Number one といったあと、その話が延々と続く。話しているうちに熱が入って、つぎからっぎへと発展してしまうのだ。 Number two がいつになったら出てくるのかとすきもきしているうちに、話は別のことになってしまった。どうすら、three points と予告したことを忘れてしまったらしい。

 誤訳をしたのではないかと疑われるのが困ると、こぼしていた。                      

長文章法:野口悠紀雄著より