選択して集中せよ

 

 一般に、「あれもこれも」と網羅しようとすると、論旨も主張もはっきりしなくなる。重要なものが何かを見出し、それに集中すべきである。これは文章に限ったことでぱないが、文章執筆ではとくに重要なことだ。

 「これ以外の場合もあることを忘れている」「最新の理論展開を無視している」などという意地悪批評が気になるので、「知っているよ」と言いたくなる。専門家の目を意識すると、どうしてもそうなる。しかし、そうした考えは捨てるべきだ。

 枝葉をとり、幹を見せることが必要だ。1において、個別文をわかりすすくする注意として、「余計なものはすべて削れ」と述べた。同じことが、論述全体についても当てはまる。伝えたい主要テーマ(第1章で述べた「メッセしご」をつねに意識し、それを間違いなく、そして印象的に伝えることに専念する。

 この章でも、「わかりにくい文章の症状」をすべて網羅したわけではない。そのうち、重要なものだけを書いた。

 世界は複雑であり、人間の持ち時間は少ない。「この世にはいろいろなことがある」と言われても、どうしようもない。すべてを力、、(Iしようとする人は、結局何も力、、(Iできない。「選択と集中」こそ重要である。

 なお、パソコンで文章を書けるようになって、この章で述べた問題への対処は、以前より容易にできるようになった。個々の文の修止も、文の移動・入れ替えも、簡単にできるようになったからである。そして、何度も読み返して、何度でも書き直せる。

 「何度でも書き直せるため、わかりやすい文章を書けるようになった」とは、パソコンの登場によってもたらされた最大の利点の一つだ。この利点を最大限に活用しよう(もう一つの利点は、「とりあえす始められること」である。。

長文章法:野口悠紀雄著より