悪文の代表選手(その2)逃げ水説明文

 

 パソコンやそのソフトの使い方の説明にも、わかりにくいものが多い。

 最大の理由は、文中に現れる専門用語の意味が定義されていなかったり、説明されていないことだ。

 フォルダ、ショートカット、ロダオン・プロセス、ローカル・バス、ファイル転送プロトコル等々の用語がつぎっぎに出てくる。用語解説ページもあるのだが、説明中に再びこうした言葉が出てくるので、どこまで追求してもわからない。こういうのを、「逃げ水説明文」ということができるだろう。

 「書き込みアクセス権」のように、言葉の表面的な意味はわかるのだが、それをどう獲得するかが全然わからない場合もある。DAVプロトコル、WECプロトコル標準などと言われると、かなりパソコンに習熟した人でも、すぐにはわからないだろう。

 技術的な内容を誰にもわかるように説明するのは、もちろん容易ではない。しかも技術は急速に進歩する。パソコンやソフトの説明文をわかりやすくするのは、かなり難しい課題だ。

 しかし、家庭用のテレビすビデオデッキには、「誰にもわかる」説明書がある。DVDプレイす1のように比較的新しい機器にも、わかりやすい説明がある。しようと思えばできないことではない。

 最も重要なのは、「初心者にもわかるおおよその説明」と「特殊な問題に直面した場合の専門的説明」が別になっていないことだ。パソコンやソフトの使い方には、前者のタイプの説明、がないことが多い。多くの人が「わからない」と言うのは、そのためだ。あらゆるケースを網羅していなくてもよいから、「とにかく最低限の機能が使え、そして無事に作業を終了させる」ための説明があって然るべきだろう。

 前に示した例文(I)にも、この問題があった。「アプリケーションソフト」とか「OS」というように、必ずしもすべての読者、が知っているわけではない用語を用いている。

長文章法:野口悠紀雄著より