骨に住む三種類の細胞

 

 血液中のカルシウム濃度はつねに一定に保たれており、このはたらきをカルシウム濃度のホメオスターシスと呼ぶが、ホメオスターシスに一役買っているのが骨の中の細胞である。骨には、溶かす細胞(破骨細胞)とつくる細胞(骨芽細胞)と居眠りしている細胞(骨細胞)との三種類がある。

 骨にはたくさんの孔があいているが、その中でもとくに細いトンネル(骨細管)の中で遠くにいる隣の細胞と長い子をつなぎあって居眠りをしている骨細胞は、もとをただせば活発にはたらいていた骨芽細胞の隠居後の姿なのである。骨芽細胞は骨をつくる細胞であるが、骨をせっせとつくっているうちに気がついたら自分がつくった骨の中に閉じ込められてしまって、無理やりに隠居に追い込まれてしまったのである。

 骨の中の細いトンネル内で手をつないでいる骨細胞は、お互いにつないだ手を介して情報の交換をしていることは明らがであるが、そのほかに何をしているのが確たるところはわからない。ただ、もともとこの細胞は骨をつくる骨芽細胞であったが、引退して骨細胞に変わってからは本職の骨形成はすめて、退屈まぎれに時々、骨をけずったりもしているのではないか、と考えられている。そう考える根拠は、まれに骨細胞を入れている細いトンネルが広くなっていて、居眠りをしているはずの骨細胞がトンネルを拡大したとしか考えられない現象がみとめられるがらである。骨細胞が骨をけずるとしてもわずかずつであり、骨をけずるのが専門になったとはいえないが、骨細胞の総数が多いので、その影響力汪無視できない、との見方もされている。

 骨では三種類の細胞のうち、破骨細胞は、活発な暴れん坊で、おまけに体つきが大きく目玉(核)がときには一○○個もあるといったぐあいに、恐ろしい細胞である。この破骨細胞は、骨の表面に吸いついて骨を溶がしているが、ところがまわず吸いついているわけではない。骨が古くなったのでそろそろつくり変えようと狙いをつけた部分にはたらく場合と、血液中のカルシウムが薄くなった時にはたらく場合の、二つの場面で活躍するのが破骨細胞である。


    骨は均一な白い石のような外観をしているが、薄く切って顕微鏡で観察すると、たくさんの孔があいていることがわがる。それをさらに詳細に観察すると、大きい孔のまわりに、より細かな、断面ではゴマ粒のように見える細いトンネル(骨細管)がおいてあり、その中に骨細胞が潜んでいる。大きい方の孔(ハバース管)については、全体としてどのような構造になっている。

    ところが、二○年前頃に骨をカンナのような刀で薄くけずる方法が開発された。この方法により、骨を連続して薄く、横断する方向に何枚にもけずり、それを重ねて観察することによって、孔の立体構造が把握できるようになったのである。この骨の横断標本を。000枚以上も観察すると、大きい方の孔は何ミリが続いても、すがては壁に突き当たるという、ちょうど封大筒のような構造をしていた。そして封筒の内面には、骨をつくる骨芽細胞が平らになってお互いに体をつなぎ、全体としては膜状になって骨の表面を覆っていることが判明した。これは、骨をつくる細胞が仕事の出番を待っているといった状態である。

   もし、血液中のカルシウムが徐々に減る状況におちいった場合、喉ぼとけの近くにある四つのアズキ大の副甲状腺が敏感にそれを感じとり、副甲状腺ホルモンを分泌する。副甲状腺ホルモンが血液を通って骨の組織内にまでしみ込んでくると、平らになっていた骨芽細胞が丸く縮むことが観察されている。丸くなれば骨の衣向をすべて覆い切れなくなって裸になっ心骨の叫砂露出するが、骨を溶かす破骨細胞が着陸するのである。血液のカルシウム濃度が低くなった時に分泌される副甲状腺ホルモンの命令を、破骨細胞が直接受けとって作業を問始すれば、迅速に問題を解決できるはすであるが、破骨細胞には直答が許されず、あいだに骨節細胞による。それは、骨の中にあって骨を警護する身内の細胞である骨芽細胞とちがって、破骨細胞は外から来たよそ者細胞なので、はたらくための鍵を持久されていないことと、破骨細胞は体つきが大きく、はたらきが止まらないほど暴れん坊であることとから、ホルモンが仕事を頼む相手を選ぶのに慎重になっているのかもしれない。あくまでも推定であるが……。