奇想天外な科学研究

 

 話が夢のない方向へ流れてしまった。若い研究者を鼓舞しなくてはイケナイ。ここで1つ、画期的な話をしよう。例えば「ヒトの精子をチンパンジーの卵子に受精させて、チンパンジ
ーに生ませた子は、ヒトかチンパンジーか新しい生物種か?」。

 こういう実験はもちろん倫理上の問題はあるけれど、そもそも技術的に可能なことなのか?可能だとすると、人間社会にどういう利益や損失をもたらすのか話が急にトンデモなさすぎ
たかもしれないが、世間を騒がすセンセーショナルな研究を考えたいのである。

 このようなトンデモ話を扇情的に書くのは、 の…好みである。しかしここは1つ/‘科学的”に整理してみたい。その格好の材料はSF、つまり空想科学小説(サイエンス・フィクシ
ョン)である。“科学的”といっておきながらSFとはないもんだ、とあきれる読者もおられるだろうが、SFもバカにしたもんではない。考え方によれば、独創的アイデアの宝庫というか
、アイデアと独創性が勝負の世界なのである SFの世界にもいろいろな分野があるが、ここでは「バイオ」に絞って、どんなアイデアが語られているのか、バイオ研究者から見て現実
的な項目だけをさぐってみた。

 二コルス(P。 Nicholls)の本2)は, 1983年出版と少し古いけど、SFに描かれた「バイオ」の可能性を冷静に分析している。彼の分析を土台に、 現代風に追加、説明、アレンジをして
みた。そうすると、SFの世界で「バイオ」を扱った項目は13項目になる。なお、透明人間はどう甘く考えても科学的に不可能なので除いた。ガリバー旅行記のような普通の人間の50
倍も大きな人間とか、逆に50分の1の小さな人間とかも、非科学的なので除いてある。

 13項目のうち、「人工臓器」、「遺イ云子工学」、「人間工学」などの数項目は’83年にすでにその一部が実現していた。「不老・不死」も「不老・不死」と断定すると達成できてい
ないが、ここ50余年の問に日本人の寿命は約25年も延びているから、現実の世の中は「不老・不死」の方向に大きく進んでいることになる。

 各項目を1つ1つ説明しているスペースはない。どれも大きく実現しつつある。もちろん、進歩の長短はあるし、進む方向は、当初考えていた方向ではないかもしれない。しかし、人
類の最終(?)目標に近づきつつある。空想の世界で望んだことが現実になりつつあるのだ。

 そういうセンセーショナルな世界とは無縁に、今日も1日DNAを切ったり貼ったり、細胞を染めたり、ビン洗いに明け暮れたりしたキミは、まもなく新世紀を迎えるというのに、いった
い何をやってるのか?目標にまっしぐらに飛びかかって研究する気はないものか?ナニ、そんな空想科学小説などもち出してインチキくさい、とあっしゃるか。

不肖ハクラク著より