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NIHでのセクハラ講習会

 

「摩擦を恐れ、力を恐れ、物言わぬ」人間

  1998年夏にアメリカ・NIH客員研究員として滞在したとき、研究を始めてすぐに引き受け手であるNIHの研究部長が対処したことが3つあった。

 第1は、A4紙1枚にプリントされた10項目のルールである。

 部長がいうには、客員研究員の到着後1週間以内に、部長は客員研究員にNIHのルールを説明しなければならない。そして、[説明した旨および説明を受けた旨]の書類に部長と客員研
究員がサインをし、その書類をNIH本部に提出しなければならないという。

 その10項目の内容は、一部しか憶えていない。例えば、「研究室に子供を連れてきてはいけない。連れてくるときは上司の許可をとり、しかるべき安全対策を講じなくてはいけない
」とかがあった。また、「客員研究員はNIHでの研究に専念し、上司の許可なく研究以外の仕事をしてはいけない」とか、「NIHでの研究成果はNIHの許可なく外部に発表してはいけない」
とかもあった。

 第2は、セクハラ講習会である。

 研究部長は客員研究員にセクハラ講習会を受講させ、しかもセクハラ問題に対処する義務がある、というルールだ。これも10項目のルール表に載っていた。セクハラ講習会は、実は
、コンピュータで自己学習するシステムであった。NIH着任後1ヵ月以内に修得しなければならない 講習会の最後にテストが用意され
ていて、[80点が合格ラインだよ]と部長は言っていたが、85点をとることができた。その答案を所内便でNIH本部に送って講習会は終了した。

 余談だが、実は、1力月の期限までに後3日という日に、「以下の者はまだセクハラ講習会が終わっていない、早く講習を受けるように」というリストが部長経由でまわってきた。そ
のリストには2名の名前しかなく、1名は、ナント、私であった。 早速、 NIH本部の担当官に「答案をO月×日に所内便で送りました」と伝えた。すると、担当官から、「申し訳あり
ません。あなたの送付書類は紛失したようです。答案は結構ですから、得点だけご連絡ください」と言ってきた。

  第3は、セクハラと同じような受講義務で、内容はコンピュータのハッキング、セキュリティ情報管理についでであった。これも10項目のルール表に載っていたものである。セク
ハラと同じようにコンピュータ上で講習を受けた。

 そして、NIH研究所の廊下には雇用機会均等で問題があればNIH本部のホットラインに電話ください」とか、[実験勤物の扱いに問題を感じたらNIH本部496-5424に電話ください]とかの
ポスターが貼ってある。また、NIHの研究者同士がいろいろな問題について議論できる会がたくさんある。

 つまり、研究者社会の仲問同士が、研究者倫理について正面から話し合い、わかりやすい守れるルールをつくり、そのルールを広報し、学びあい、つねに改善していこうという勤きが
活発である。だから、アメリカの研究者社会では何がよくて、何がよくなくて、何が論争中である、ということがはっきりしていて精神衛生上八ナハダよろしい

 一方、日本はこういうことをまともに議論しない。なぜなのだろう。偉い人の権威とか、権力をもつ人の既得権益がおびやかされるからだろうか?フリー・ジャーナリストの柳井よし
子が指摘するように日本人は[摩擦を恐れ、力を恐れ、物言わぬ]人間になってしまったのだろうか?柳井よし子は次のように指摘する。

 現代の日本人は「困難や問題に直面したときに闘うだけの心の強さ、意思の堅固さもなくしつつある。立ち上がらなければならない時に、勇気をふるって立ち上がることもなくなりつ
つある

 これでいいのだろうか?その日本人の中にあって、「バイオ」研究者は物言わぬ傾向がさらに強いと思うのは思い過ごしだろうか

不肖ハクラク著より