日本人なら日本を愛するのは当然でしょう

 


  「研究者の人生観にも最近コ可か変化はありますか?」、と聞いてみた。


  「ワタクシは、団塊の世代と若い人の間の“はざかい期"世代です、団塊の世代は、


 日本の高度成長を支え、世界に負けない日本の科学体制をつくろうと、アメリカに


 ポスドクとして学びにきました 現在も国際社会に貢献していると思います。とこ


 るが、今の若い日本人ポスドクはぜんぜん違います。私の給料はこれだけだからこ


 れだけ慟けばいい、と考えているようです。少し違うことを頼むと、そんな仕事は


 契約に入っていない、という態度です、アメリカ的といえばアメリカ的です」


  「否定的にいいましたが、これは、ある意味では、いい面もあります。というのは、


 はっきりした態度をとることで、研究者を牛チンとふるいにかけられるからです。


 アメリカ大は収入の額で大を判断します。研究者に対しては、『こんな安い給料でそ


 んな長時間働くのはバカだ。博士号までとってそんな安い給料で働くのはバカだ。


 揚げ鴆の果てに、そんなに傚いてもアカデミックなポストを得るのは難しい。もし


 得られても、研究がそんなにすばらしい楽しい仕事とは思えない。研究者の人生が


 いいとは、とても思えない』ふつうのアメリカ大はみんなそう思っています。そう


 いう状況で、それでも研究をやろうっていうのは、並大抵のことじゃないんです。


 だから、アメリカでは、能力があって、ヤル気があって、研究をおもしろがってる


 連中だけが研究者として生き残ってくるんです。話が少し早すぎますか?」。不肖・


 ハクうク、メモを取りながら話を伺っている。話が勢いづいてくるとメモを取るの


 が間に合わない。眉根をよせる氏も、気がついたらしい。


   「それでは、どんな職業が最近のアメリ力人にウケますか?」,。と聞いた。


   「一般的にウケる職業は、医者と弁護士、それにベンチャービジネスじゃないで


  しょうか」


  研究以外のことは、ごく一般的な返事が返ってくる。


  「どうして日本に帰りたいんですか?アメリカのほうが研究しやすいし、生活も


 豊かだと思うんですが」、と少し意地の悪い質問をしてみた。


  眉根を一層よせて、「日本からきた研究者は、アメリカでは1人で研究していかな


 さやなりません。大学院時代の仲間や先生がここにはいません。また、グU-ン


 カードがとれないと、アメリカで研究していくのはさらに難しいし、クリーンカー


 ドがとれても、老後が心配です。自分の体力や気力がおとろえたときのことを思う


 と、不安です。それに、実際の収入は、日本の方が多いんじゃないでしょうか。そ


 れに、ワタクシの個人的な感情ですが、人種の多いアメリカで生活していて、日本への愛国心がとても強くなりました。ホンダの車、ソニーウォークマンセイコーの時計
、二コンのカメラを、アメリカ人が重宝かって、うれしがって使っているのを見ると、日本人でよかったナつで思います。日本で、日の丸を掲げないとか、国歌を歌わないなん
て、まったくナンセンスです。日本人なら日本を愛するのは当然でしょう」

 ちょうどそこに、友人とおぼしき日本人が入ってきた。「ナンカまじめな話をしてるよーだネー」、と冷やかされて、眉根をよせる氏の顔の筋肉が初めてリラックスした。

 「日本人ほど愛国心の欠けている人種はいないネ、ポンドに。韓国人はアメリカでは必ずビュンダイ(韓国車)を買うよネー」と、入ってきた友人に話しかけた。急に口調が
軽くなったのである。

 入ってきた友人は、「日本にはまだ戦後が残ってるんだよ。アメU力から日本にいくと歓迎してくれるし、日本では、まだ、日本のことよりアメリカの方が重要なんだよ」つ
で、テャカして出ていった。

 気持ちがほぐれてきたかもしれない。

 「日本の若い人,例えば,大学生や大学院生にいっておきたいことがありますか9」、と聞いてみた。

 またとたんに眉根をキューとよせて、「もっともっと勉強しないといけない。高校の教科書をやさしくするなんてとんでもない。高校生や大学生にはもっとキューキュー勉強
させて、実力をつけさせたほうがいい。基礎のないところに創造なんて生まれませんレどんな社会でも落ちこばれはいるんだから、もっとキューキューやるべきです。資源のない
食料自給率30%の日本が生き残れる道は人材しかありません。競争の激しいところにしか優秀な人材は育ちません。日本は、質の高い優秀な人材を必要としています。優秀な
人材を育てるために、もっと教育界に金をまわすべきです。金のあるところに優秀な人材が集まります。自分の子供をバカな教師に教育してほしいと思う親はいないでしょう。
また、教師を再教育するシステムも必要です]

 話がエンディングに入ってきた。

 「モノゴトには、誰にもどうすることもできない大きな流れがあります。日本は高度成長期が終わって、これから衰亡の一途をたどるのが自然の流れです。資源もない食料自
給率30%の国が、ここまで繁栄してきたのがむしろ奇跡です。アメU力のような国力、中国のような国力を求めてはいけないでしょう。現在の日本を改革できるというのは幻
想じゃないでしょうか]日本をトコトン改善してみませんか?

  「そうおっしゃらないで、このさい、日本をトコトン改善してみませんか?」、と不肖・ハクうク、眉根をよせる氏を挑発したが、全く話に乗ってこない。眉根をよる氏は、「
日本の、おおあざ田舎・あざ田舎大学に帰って、自分の後半生を、そこでひっそりと過ご世ればいいんです」、てなことをおっしゃる。

 「ただ日本の“勤勉は美徳だ"という倫理観・人生観は世界に高く評価されています。ワタクシも誇りに思っております」、と締めくくった。

  翌日、廊下でお会いしたら、言いたいことを言ってしまったせいか、眉根はもう

 寄っていなかった。とても明るい顔をしていた。ただ[匿名でお願いします。ゼッタイ匿名で]、と念を押されてしまった。医学部の“組の掟"は相当キツそうである。

不肖ハクラク著より