分子生物学:癌研究

 「癌研究はいよ変わりつつある。基本から変わりつつあるんだ。分子生物学や分子遺伝学がすすむにつれて、いままでと違った見方が出てきた。その中でも細胞周期(cell 

cycle)の動きが大きいと思う。細胞周期が遺伝子によってうよく調節されていることがわかってきた。その1つにプログラム細胞死っていうのがある。これは、細胞死が遺伝的
にプログラムされている、つまり決められている、ということだ。現象としては、若い細胞がでてくると古い細胞が死ぬということだ。これとは別の話なんだけど、白血球を培
養しようとして、身体から取り出した白血球を培養液に入れても、育だないで死んでしまう。でもこれに成長因子を加えると、白血球は体外でも生きつづけられる。それで最初
に話しだプログラム細胞死はどのようにして起こるのか?”と、この“成長因子とは何か?”という研究がここ10年、飛躍的にすすんでるんだ」

 話が理路整然としている。 の場合、マナ板に水というかドプ板に水で、話が流れない。ドクター・カケフダは立て板に水である。大学で講義を聴いているような気になって
きた。ただ、話が少しむつかしい。

 「細胞死が、どう“癌”にからんでくるかだけど、傷ついた遺イ云子をもつ細胞は、個体から見れば死んでくれたほうがいい。実際、古い細胞の遺伝子には倪が入っていること
が多いから、生体のもつメカニズムとして細胞死はとても重要なんだ。細胞内にp53というタンパク質があって、傷ついた遺伝子を検出していることもわかってきた。 p53は
いわゆる癌抑制遺伝子なんだp53が傷ついた遺伝子を見つけると、その細胞を死に至らしめる、だから、もし卩53の遺伝子に変異が起こって、p53が役に立たないと困ったこ
とになる。傷ついた遺伝子をもつ古い細胞が死なないでどんどん増えてしまう。実は、これが癌なんだ」

 「もっとも、ヒトの細胞内には卩53の作用を抑える遺伝子があることもわかってきた。というわけで、たいていの白血病ぱ遺伝子のバランスがくずれたために起こるという
考えが現在の主流になっている。前立腺癌、大腸癌、乳癌でも関連遺伝子が見つかってきて、多分すべての癌にこの考えが当てはまると思う。いままで、癌のメカニズムに関し
ては/‘正常な細胞が突然変異を起こして異常な癌細胞になる”と考えられていた。これはこれで圖違っているわけじゃないけど、現在のデータから見ると、実体は大きく変わ
ってきた」