英語でリアルな感情表現もできる段階

「その感情移入を、今回、映画で英語を学びながら何度か経験しました。男性が話すときはそうでもないのですが、ヒロインが話しているある瞬間に、『あ、これはまさに私がいいたいことだ』と、ふと感じることがあったんです」

 

 登場人物への感情移入-‐-英語であれ、ドイツ語であれ、あなたの語学力かおる程度の水準まで達すると、その現象が起こる。

 

 たとえば、映画の中にこんなシーンがあったとしよう。洗練されたオフィスで-窓の外にはゴールデンデイトブリッジが眺望できるI-二人のビジネスマンがしきりに議論を交わしている。一人はきちんとした身なりの、青い瞳が魅力的な四十代のアメリカ人。もう一人はやはりきちんとスーツを着こなしたアジア系の三十代くらいの男性。二人の議論はまったくよどみがなく、アジア系男性の囗からも、アメリカ人にまったく劣らない滑らかで格調ある英語がすらすらと流れ出てくる……。

 

 それこそハリウッド映画のワンシーンのようだが、第四ステップにおいて、ビデオ映画をたくさん見れば見るほど、こういう場面への感情移入が自然にできるようになってくるのだ。そこにあなたが実際に居合わせているように、あるいは、そのアジア系の男性がまるであなた自身であるかのように、あなたの口からも、映画の登場人物と変わらないレベルの英語が自在に出てくるようになる。

 

 そして彼が笑えば、あなたも楽しい気持ちになり、彼が腹を立てれば、思わず「くそ、なんてことだ」とか「バカバカしい」といっか英語を口走っていたりもする。あるいは、ある言葉や表現を聞くと、それにともなう表情やしぐさまでがすぐにあなたの頭に浮かぶようになる。いわば見ている映像に合わせて、それまでに習得した英語が自然にあふれでてくるのだ。これが音や言葉と映像の一致、または感情と言語の一致現象である。

 

 この感情移入の段階に達すると、意識しないうちに、本場の巻き舌風の発音で、いかにもアメリカ人風足肩をすくめてしゃべったり、彼らと同じような表情をこしらえたりする自分に気づくはずである。そして、そのことが自分で不自然には感じられなくなる。それだけあなたの英語からぎごちなさが消えて、本場のそれに近づいたからである。つまり、英語が第二の母国語としてあなたの中に定着しはじめているのである。

 

 「つまり、『頭で考えて舌でしゃべる』ときの、自分の使う英語に自分白身が慣れていないような、恥ずかしくてぎごちない感じ、それがなくなったときに感情移入が起こりはじめるんだ。キミはもうそのレベルになっただろう」

 

 「いいえ、まだ少し慣れていない感じがあります。ときどきニュースや映画の英語が故郷の言葉のように親しみ深く感じられるときもあるんですけど。もっと映画を見なくてはいけませんね」

 

 「あと一、二本見れば、ぎごちなさも消えるだろう。それと、書き取ったセリフを読むときは、登場人物になりきって感情をこめて読むようにね」

 

 「あ、そうか。私、それをおろそかにしてました。次からは、動きを入れてやってみようかな。ご存じでしょう・ ひとり芝居でよくやる、セリフに従って、いろいろな人の役をやるやり方を」

 

 うん、それはいいね。より現実感が出るだろう。そのとき、役柄を変えてやってみたあとで、もう一度そのビデオを見るようにするといいよ。すると、演技しながらぎごちなく感じたり、おかしいなと思った部分がすぐわかるようになる。それをチェックしたあと、もう一度演技してみる。それを三回もくり返せば、その映画に出てくる英語はそっくり自分のものになるはずだよ」

 

 「わかりました。おもしろそうですね。だれか相手加いるといいんだけど、いっしょに演技する人が」

 

 「私かやろうか? 言葉だけではなく、体の演技つきという条件で」

 

 「先生、いやだあ。キスシーンもということですか?」

 

 「冗談はともかく、この第四ステップで、映画をできるだけたくさん見ておいたほうがいい。あと三本くらい見ておこう。四、五日もあれば一本を見終えることができるだろう。キミならもう全部理解できるはずだから書き取りはもちろんやる必要はない」

 

 「わかりました。そのころ、またうかがいます」

『英語は絶対、勉強するな』チョン チャンヨン著 (定価1300円)より