研究はデータベースつくり?

 

  空調のきいた快適な家に住み、食べ物は十分にあって、過酷な肉体労働はない。痛いとか苦しいという病気もおおむね治せる。社会問題(犯罪、不正、局地戦争など)はあるけれど
、日常生活のうえで「必要」なことは満たされている。これがおおもね、日本を含めた先進国の現状であろう。

 普通の感覚で生きていれば、物質的にも精神的にもはや「ハングリー」ではないのだ。このままの生活水準が保てれば人間生活は快適である、そうなると「発明の母」である「必要」
がないのだから、発明は起こってこない。科学研究でも新しい概念の発見や大きな飛躍はもうないのかもしれない。日々の研究作業は、データベースに新しい情報を加えているだけのよ
うな気もする。

 自然観を変えるような革命的な発見、人間生活を豊かにする発明、そういう発見や発明が科学者の仕事だ、と不肖・ハクうク、長い間、思っていた。しかし、どうやらそういう時代は
終わったのかもしれない ホーカン(J。 Horg日口)が1996年の著書で、「科学研究上の大きな問題はもう全部解明されてしまった。残っているのは重箱のスミを突つくような問題だけだ
」、と危惧しているのが当たっていそうである。

チンパンジーとヒトの子をつくりますか?

 


    ワシントンに点在するスミソニアン博物館は、どこも無料である。航空宇宙博物館、自然史博物館、国立美術館など、どれも世界のトップレベルのすばらしい博物館である そ
の1二つにワシントン動物園がある。もちろん、ここも無料で入れる。しかも日本の上野動物園よりはるかに空いている。

 入ってすぐの所に、黒ブタを少し大きくして、胴半分を白く塗ったような動物が2頭いた。バク(Tapir)と書いてあった。夢を食べるといわれるバクである。解説板に“絶滅に瀕してい
る動物”と書いてあった。

 バクを見ていたら、近くのスピーカーから何か説明している声が聞こえてきた。行ってみると、オープンスペースの草原に、チータが1頭と、胸もとにマイクをつけた飼育係が2人い
た。チータはライオンより少し小さい猛獣である。見物人と草原の間にはチータが飛び越せない柵がある。飼育係は長さ2メートルぐらいの棒でチータを警戒しつつ、草原を歩きながら
チータの特徴を説明していた。そして、もっていたボールをやたら遠くに放り投げた。チータは草原を疾走しボールに飛びついた。解説板に“絶滅に瀕している動物”と書いてあった。

 チータ園のとなりにジャイアント・パンダ園があった。中国からアメリカに贈られた2頭の熊猫(コレ、中国語)のうちの1頭だ。1頭は1992年暮、原因不明だが、急死している。老
衰という説もある。解説板に“絶滅に瀕している動物”と書いてあった、

 

アメリカで財布を拾う恐怖

 


  NIHにいくためワシントンDC郊外の街の公道を歩いていて、財布を拾った。朝8時ごろである クルマはビュンビュン走っているが、歩いている人はほとんどいない公道だった。財布
からドル紙幣が顔を出していた。無視したほうがよかったかもしれないけど、手に取ってしまった。そっと道の上に戻しておこうかとも思っだけど、財布にはもう指紋がついてしまった

 これは、ひょっとしてCIAの陰謀かもしれない 明日ポトマック川イラク高官の死体。持ち主の財布についていた指紋から日本人の が指名手配、ということになるかもしれない
。アメリカでは警察官もFBI搜査官もCIAエージェントも信用できない、映画にでてくるこういう職業の人はたいてい悪いヤツだ。信用できるのはハリソン・フォードぐらいである。

  それで、ポリスに財布を渡す前に、中身を見た 現金は20ドル札2枚、1ドル札12枚で、

 計52ドル。ワシントン州シアトル市運転免許証。あとはクレジット・カードがたくさん入っている。暗号文もなければ麻薬もない。ホッ。それでも安心できないので、机の上に広げ
て写真を撮っておいた。

 こうしてやっと研究室の秘書に処理を依頼した。翌日テレビのニュースで有名なファッション・デザイナーのヴェルサーテ氏がマイアミで殺害され、若い男性クメーナンが指名手配さ
れた。拾った財布とは‥‥‥何の関係もない、まだない、まだ。

 

日本の大学教授の給料は安い

 

 とは言ってみたものの、以上のデータはアメリカのデータだ。というわけで、日本のデータも少しだけ書いてみよう。ます、鷲田小弥太先生は以下のように言っておられる4)。

「はっきり言って、(大学教官の)給料は安い」

 「大学教官の給与は20~30代が想像を絶して安く、40代で世間並みに近づき、50代が頂上で、60代は上がらないが高原状態を維持する」(傍点は筆者)「東京の私立で、4
5歳の教授の年収が1000万円とするなら、東大の45歳の教授は800万円というのが相場である」というわけで、日本の大学教官の年収はそれほどよくはなさそうである。ただ、
UCLA医学研究科のダイアモンド教授は誰にとっても重要で、しかも関心が高く、自分のはよく知っているのに、他人に聞けないことが2つある。1つはセックスの
ことで、もう1つは年収である」、といっている5)、だから 、日本の友人や知人に、「年収いくら?」と聞くことはできない。

 仕方ないので上記の収入額を日本の大学教官の実態としよう。そして、突出した学問的才能をもち、すばらしい研究成果をあげても、日本では、年収額アップを所属大学と交渉するシ
ステムはない。原則的には副業も(したがって副収入も)禁じられている。自分でベンチャービジネスを行なえるシステムも、最近までは全くなかった。つまり、研究のスーパースター
であっても、アメリカの一部の大学教授のような高収入はありえない。

 ところで、たまたま手許にある1998年12月23日の朝日新聞を見ると、日本の野球選手の年俸に関する記事がでていた。読売巨人軍にとって’98年はプロ13年間で最低の成
績だったけど年収3億3000万円の契約を果たしたとある。横浜ベイスターズ・佐々木投手は4億8000万円だと推定されている6)。日本では、スーパースター級の大学教授でさえ
、スポーツ選手の数十分の1の収入である。

 もっとも、鷲田小弥太先生は大学教官のよい面を次のように指摘している。

 「生きる糧の道を決定せすに30歳までうかうかと過ごすことができ、職をもった後も、年間280日を越す労働日にこそ、自分が長年研鑚してきた研究に打ち込める、ないしは、何
もせすにボーツと過ごすこともでき、高齢になっても十分な収入とほば楽しみに近い「仕事」が保証され、世間上の評価も低くない」。だから悪くはないよ、と。

    こうは書いたが、不肖・ハクうク、働かなくてもいい日が年間280日もあるこの状況は、大学教官にとって悪くなくても、日本社会にとっていいとは思えない。変えたほうが
いいと思っている。大学教官や研究者の収入は、成果に応じた歩合制にしたほうがいいと思っている。

 大学教官が損か得かはおいておくとして、日本は、博士課程の入学定員の倍増計画がほば完了し、現在はポスドクを大幅に増加させつつある。ポスドクを出た「バイオ」研究者に、こ れからも果たして、大学教官のポストはあるのだろうか?

不肖ハクラク著より

研究者に対する世間の評価は低い

 

    1996年のアメリカの世論調査によれば、科学技術で重要な発見・発明をした人を、アメリカ社会は適正に評価していない。まともに評価していると思ってるアメリカ人は22人
しかいない。一方、過小評価だと思ってる人は74%もいるのである。芸能界やスポーツ界のほうがすっと高く評価される、だから、もしキミに才能があれば芸能界やスポーツ界にいっ
たほうがいい。どう?ヒンギスとかタイガ一ウッズってのは。アツ、もう遅いか。芸能やスポーツが無理なら、ビジネス界でもいい。ビジネスだって科学技術界よ
りすっとまともに評価してもらえる。どう、ビル・ゲイツってのは。どうやら科学技術者は割に合わないのかもしれない。「こういうことは、大学に入る前に言ってくれなくちや」とお
怒りの方もいるだろう。「オレの人生どうしてくれる」と言われても‥‥‥‥

 マ、人間万事バンジージャンプ。なんのコッチャ?

不肖ハクラク著より

コンピュータ屋さんに失業なし

 

    他の科学技術分野に比べて年収が少しぐらい低くてもソコソコの仕事があって、安定した生活が営めればそれでいいとしよう アメリカのライフサイエンス分野で博士号をとった人の98%は就職できる。31.6%はポスドクになっている。動いている人の87%はライフサイエンスに関連した仕事をしている。マー悪くない数字だ。この傾向はこのまま続くのだろうか?マクロ経済の成長が“低い"‘ふつう"‘高い"の3つのシナリオを想定して科学技術分野の人材の過不足を予想したアメリカのデータがある。‘ふつう”に成長したとしても、ライフサイエンス分野の人材は、ナント1%で、成長率が“低い”場合は5%。

 一方、同じ科学技術者でも、コンピュータ関係では、経済成長率が“低い”ときでも1%も人材が不足する 先日お会いした日本の女子大学の教授(コンピュータ関係)は、この女子学生就職難の時代でも、「学部生の就職はきわめて好調」といっていた

 ライフサイエンスに足を突っ込んでしまったキミにはハナハダ申し訳ないが、できれば、コンピュータ、次いで、工学、さらには社会科学の方向にシフトした方が安全である。

 「そんなこと言われても、オイソレとはシフトできませんヨ」

 「ごもっともです」

 それならキミは、生き残りをかけて頑張るしかないゾ。大学をレジャーランドと思ってると将来暗いよ バイトにうつつを抜かしてるとロクな仕事にありつけないよ。1週間に70時間は研究せい

『不肖ハクラク』より

理系の修士号はマイナス・イメージ

 

    話が医学系に偏りすぎてしまった。もう少し幅広い範囲でみてみよう。まず、理系出身者の実際の初任給(年収)をもう少し詳しく調べてみた。1997年7月のアメリカのデータである。ウーム、生物科学を専攻して大学を出ても、年収は低いほうから数えた|まうが早い。全分野で最低の家政学卒が2万844ドルのところ、生物科学卒は2万5356ドルである。最高は薬学卒の5万2816ドルだから、生物科学卒は薬学卒の半分以下しかもらえない。ウヘエ。

 修士号をとると、どーなるか。アメリカでは、科学技術分野の修士号は「何らかの理由で博士号をとれなかった人」という扱いである。だから、学士号に比べ年収はたいして上昇しない。生物科学の修士号取得者の年収は2万6874ドルで、ナント、全分野の最低である。一方, MBA (エムビーエーと読む)と称される経営学修士はスゴイ。年収6万2135ドルももらえるのだ。科学技術分野を含めたたいていの分野の博士号取得者に比べても、経営学修士の年収のほうが多い。もっとも、4年以上の実務経験が必要ではあるのだが。

 博士号をとると、どーなるか7博士号をとった人の全分野での最低が人文科学で年収2万6500ドル。人文科学分野では、学部卒で2万3344ドルだから、それからさらに6~7年かけて博士号をとっても年収は14%アップにしかならない。驚いたことに博士号取得者より修士号取得者のほうが年収が多い。こんなんじや、博士号を誰もとらなくなってしまう。人文科学分野は例外的で、異常な気がする。それに比べると、生物科学で博士号をとれば、年収は学士の2倍以上になって5万2383ドルになる それでも科学技術分野の中では低いほうである。ウーム。