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姿勢と運動を作る脳

 

 重力の場で生を営行人間の基本条件-それは、低姿勢であろうが高姿勢であろうが、とにかく姿勢を正すことである。

 ほとんど意識していないが、私たちの姿勢は、たくさんの筋肉のたゆみなき緊張によって支えられているのである。

 しかし、生をたくましく推進するためには、それが、善行であろうが非行であろうが、私たちは行動しなければならない。そして、あらゆる行動は、静的な姿勢を足場にした、動的な
筋肉運動によって具現されているのである。

 このように姿勢と運動は、いずれも、骨格を軸にした骨格筋の収縮と弛緩によって営まれてはいるか、その生物学的意味に、本質的な違いがあるようだ。

 眠っているときに、膝小僧をたたくと足がピョンとあがる。あげまいとしてもあがる。この運動は、意識とは無関係におこるので、反射運動という。反射運動は、感覚神経が脳幹や脊
髄で、直接に、運動神経細胞とシナプスして作る反射弓によって行なわれるのであって、意識の座である大脳皮質は関係していない。

 これに対して、姿勢や運動は、ときには、無意識的にやっているようにみえるが、眠っていてはだめで、大脳皮質の意識活動がなくてはならない。しかし、特に意図して行なう随意運
動に比べると、姿勢の保持には、反射の仕組みが大きな役割をしている。

 姿勢の仕組み ウサギの片側の前庭器(平衡感覚を司る感覚器)をこわすと、ゆがんだ強制姿勢になる。イヌで、皮膚や筋肉の感覚神経を、脊髄にはいるところで切ると、Bのように
、筋肉の緊張がなくなって腰がぬける。

 この実験は、正しい姿勢を保つためには、前庭器や皮膚や筋肉の受容器からでるイングルスが、重要な役割をしていることを示している。そして、これらのイングルスは、「声なき声
」として、反射的に運動神経に興奮的、促通的に、あるいは調節的に働きかけており、これによって私たちはあまり意識しないで、安定した姿勢を保つことができるのである。

 反射的な筋緊張の発現に、特に重要な役割をしているのは、筋肉のなかに埋れている筋紡錘という感覚器である。紡錘状の結合 ゛組織の嚢のなかに数本の筋線維(錘内線維)がはっ
ていて、これに感覚神経の末端が複雑にからみついている。そして、筋肉が引きのばされたり収縮したりすると、それが剌激になってインプルスを送りだす・このインプルスが反射的な
筋緊張の発動と調節の主な原動力である。

 ところで、錘内線維は、小型の運動神経細胞(γ細胞)からでる細い神経線維(γ線維)の支配をうけている。従って、筋紡錘から送りだされるインプルスは、筋肉の仲展や収縮だけ
でなく、γ細胞の活動によっても大幅に変るわけである。

 しかも、y細胞は、脳幹の網様体を介して、大脳皮質や大脳核やふ脳などの影響をうけているから、姿勢の保持、運動の実現がより合目的的より能率的にできるように、あらかじめ筋
肉に準備態勢をとらせることができるわけである。なお、γ細胞や筋紡錘やそれに関係した神経系を、y系とよんでいる。

 ネコの脳幹を、間脳と中脳の間で切りはなすと、胴や四肢の伸筋の緊張が高まって、特異な姿勢になる(除脳固縮)。切断によって、間脳から上位の部位が下位の部位に対して働きか
けている抑制がなくなったために、中脳以下の反射の仕組みが異常に高まった結果である(解発現象)。このことからわかるように、上位脳が下位脳の反射を抑えているという抑制の仕
組みが、私たちの姿勢と運動に、随意性が発揮できるゆとりを与えてくれているのである。

 脳の病気で、筋緊張の異常の高まりや、意図しない運動(不随意運動)がおこることがあるが、異常活動が原因のことが多い。運動の仕組み 金魚の大脳半球を切りとっても、普通に
泳いでいる。しかし、ネコではそうはゆかない。金魚の運動発現の仕組みが、中脳以下にあるためであるひ胴体牛尾を使う運動から、四肢を使う運動へ進化し、さらに、手巾足の指を自
由に使うようになると、運動発現の仕組みは上位脳に移り、人間では、大脳皮質が一番重要な役割をしている。

 人間の大脳皮質には、たくさんの運動に関係した領域がある。まず運動野(4野)であるが、体性感覚野と同じような分業の体制がある。すなわち、手や顔の運動野の面積は非常に広
い。手を使い、表情を作り、言葉を話すことができる人間の特徴が。この分業体制にはっきりあらわれている。このことは、動物の運動野の分業体制と此べると、一層はっきりする。

 拇指の運動野を電気刺激すると、反対側の拇指がビクツと動く。運動野には、あたかもピアノの鍵盤のように、一つ一つの筋肉へ運動のインプルスを送りだす部位が規則正しく並んで
いる。しかし、実際には、お互いの間にかなりの重なりあいがある。

 ところが、運動野の下方の第二次感覚運動野、半球の内側面にある補足運動野、運動野の前方の運動前野(6野)ではかなり様すが違う。これらの領域を刺激すると、頭巾胴をまわし
たり、腕や脚を同時に伸ばしたり曲げたりするような、おおまかな運動や共同運動かおこってくる。

 またサルで、両側の運動前野をこわすと、運動が不器用になり、姿勢の調節がわるくなる。人間でも、この領域がこわれると、筋肉は麻痺していないのに、まとまった動作ができなく
なる。

 そこで、運動前野は、一つ一つの筋肉を、目的にかなったように働かせる順序だてをする場所。すなわち運動の統合が行なわれる場所と考えられる。いわば、運動の設計書が作られる
ところである。そして、ここで作られた設計書は運動野へうけわたされ、運動野は設計書に従って、一つ一つの筋肉へ運動のイングルスを送りだすというように考えられる。そして、第
二次感覚運動野辛補足運動野は、この仕組みに補助的に働いているのであろう。

 運動野(4野)は、身体の反対側の筋肉を支配しているが、そのほかの領域は、両側支配の性質が強い。従って、左側の運動野がこわれると、身体の右半分の筋肉がきかなくなる(半
身不随)が、運動前野は、両側をこわさないと、運動障害がはっきりあらわれてこない。

 ところで、どんな運動、動作心、しようという意志の発想がなくてはおこらない。運動前野の前方の前頭葉で営まれる意欲、創造の精神活動が、あらゆる行動の推進力になっているの
である。

 これらの運動の領域からでる神経線維は、内包を通って、脳幹、脊髄を下行して、最後に、脳幹や脊髄にある運動神経細胞にシナプスしている。この下行路のうちで、延髄の錐体とい
う場所を東になって通る神経線維群を錐体路といい、そのほかの下行路を錐体外路という。

 錐体路は、人間で一番よく発達している高級な運動神経路で、下等な動物(鳥類以下)にはない。錐体路は主として、運動野(4野)の下層にある錐体細胞(大型のをべッツ細胞とい
う)からでているのであるが、そのほか、運動前野、体性感覚野、頭頂葉なとがらもでている。そして、その下行線維は、脳幹でネフロンを加えないで、延髄で左右交叉して下ってゆく

 これに対して、錐体外路は、運動野以外の運動の領域からでて、大脳核、視床腹部、赤核黒質などで中継ぎして網様体に下り、ここでまた中継ぎして脊髄へ下ってゆく。従って、錐
体路を、超特急列車が走る東海道新幹線にたとえると、錐体外路は、鈍行列車が走るローカル線といえよう。

 錐体路錐体外路は、解剖学的の区別にすぎない。実際に、私たちが運動、動作を行なう場合には、錐体路錐体外路とがお互いに協力して働いているのである。しいて区別をつける
とすれば、手を使ったり、表情を作ったり、言葉を話すような敏捷な筋肉運動では、錐体路が主役を演じている。しかし、わき役あっての主役であるから、わき役的な錐体外路の働きの
重要さも決して無視することはできない。