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眠りのと精神的身体的変化

 

 ポリグラフの一例である。このグラフにも示されているが眠っているときには精神的。身体的にいろいろな変化がおこる。

 まず、意識の水準がさがり、高等な精神活動も本能的な心の動きもなくなる。なお、斜線で示してあるところは、あとで説明する賦活睡眠(逆説の眠り)の時期である。

 筋肉の緊張は全般に弱くなるが、肛門や膀胱の括約筋、眼輪筋などは例外である。反射運動は弱まり、身体の大きな運動はおこらない。ただし、ときどき、顔や手や足のさきにこまか
い運動がみられる。一番特徴的なのは、眼球の運動である。眠っているとき、二種類の眼球運動がよくおこっている。一つは、ゆるやかに水平にふれるリズミカルな運動で、眠りにはい
るときや中等度の眠りのときにあらわれる(グラフでは黒い部分)。もう一つは、速やかに動く不規則な運動で、賦活睡眠の時期に対応してあらわれる(グラフでは点の部分)。

 このように、こまかい動きや緊張の高まりはあるが、全般的にみると、体性神経系の働きはかなり弱まっている。

 次に、自律神経系であるが、眠りと共に、その支配下に多彩な変化があらわれる。全体の変化としては、基礎代謝がさがり、体温は低くなる(バセド、病では、逆に基礎代謝があがる
)。

 一つ一つの働きについてみると、まず、循環系であるが、眠りの深さと平行して、心臓の収縮力、脈拍、最大血圧が減少する。また、皮膚の血管は開いて充血するが、内臓の方はむし
ろ貧血になる。

 呼吸は浅くなって、呼吸数は減少するが、逆に、眠ると呼吸数がふえる場合もある。胃や小腸の運動は弱まることが多く、消化液(唾液、胃液、胆汁など)の分泌は減少する。そのほ
か、腎臓、涙腺、鼻咽頭の粘膜からの分泌砥)減少する。また、瞳孔は眠りと共にふさくなる。

 発汗にも特異な変化がおこる。発汗の量は、汗による皮膚の電気抵抗の変化(皮膚電気反射)によってとらえている。発汗には、体温調節のための温熱性発汗と。精神感動(情動)によ
る精神性発汗の二種類がある。手についてみると、手背(前腕も同じ)の発汗は温熱性で、手掌の発汗は精神性である。眠ると、グラフでわかるように、精神性発汗が減少し、逆に、温
熱性発汗がましている。

 普通、眠っているときには、交感神経系の働きが弱まって、副交感神経系の働きが前面にでているといわれている。さきに述べた変化をみても、交感神経系の働きは、はフきり弱まっ
ている。しかし、同時にまた、副交感神経系の働きが弱っていることも否定はできない。

 眠りの学説 エコノ七はかつて、眠りを「脳の眠り」と「身体の眠り」に区別した。「脳の眠り」は、意識の水準が下った状態であって、基底核にある中枢が大脳皮質と視床の働きを
抑制したためにおこるという。これに対して、「身体の眠り」は。体性神経系や自律神経系の働きが弱まった状態であって、中脳にある中枢が、視床下部の後部と脳幹の下部の働きを抑
制したためにおこるという。

 眠りを、現象的に二つにわけたのはよいが、発現の仕組みの考えは、間違っている。しかし、マウトナ、と共に、目ざめと眠りの原囚を、神経学的な仕組みとして説明した最初のもの
としての歴史的の意味はある。

 このほかに、いろいろな眠りの学説が提案されている。大脳の血液循環が障害されたためにおこる貧血または充血が眠りの原因であるという血行障害説、特殊な疲労物質(ピプノトキ
シン)ができて、脳細胞の働きを弱めるという疲労物質説、あるいは、脳細胞の樹状突起がちぢまって、シナプス伝達ができなくなるためであるという説、グリア細胞シナプスの間に
はいりこんで、その結果、シナプス伝達が阻止されたためであるという考えなどである。

 かわったところでは、パブロフが、彼の条件反射学の立場から考えだした内抑制学説である。すなわち、大脳皮質のある場所に抑制がおこると、これが大脳皮質全体にひろがって、そ
の結果、眠るという考え方である。

 これらの学説は、いずれも実験的に証明されているわけではなく、その点では、エ=ノ壬の構想と同じように、学説の発展史的な意味しかない。

 


     眠りを、脳波を使って研究しているときに、非常に奇妙な現象がおこることが、アメリカの眠りの研究者のデメントとクライトマンによって気付かれた。みたところ眠ってい
るのに、脳波はかえって目ざめに近いパタンを示すのである。脳波が賦活されたときのパタンを示すという意味で、この状態の眠りを、賦活睡眠あるいは逆説の眠りとよんでいる。

 このような状態は、数時間の眠りの間に三、四回おこり、長いものになると、一時間近くつづくものもある。眠っているときの脳波パタンの変化を測定したものである。これでわかる
ように、賦活睡眠はすべての人にあらわれており、また、同じ人で調べてみると、ほぼきまった時間にあらわれる。この賦活睡眠で特徴的なことは、脳波のパタンだけでなく、身体にも
特異な現象がおこる。すなわち、さきに述べた速くて不規則な眼球運動平顔や手先の小さい運動が伴なう。同時にまた。心臓の拍動や呼吸が速くなったり、温熱性発汗加減少したりする
自律神経系の変化もおこっている。

 賦活睡眠は、動物でもみられており、新皮質の脳波パタンだけでなく、海馬(古皮質)の脳波に、いちじるしい徐波(θ波)があらわれる。なお、頸の筋肉の緊張がなくなるのもこの
特徴である。

 賦活睡眠の発現の仕組みについては、現在、多くの人が調べているが、まだはっきりしたことはわかっていない。眠りとしては浅い状態であり、海馬の脳波パタンから推測すると、交
感神経系の活動が高ぶった状態のようである。なお、次に述べるが、クライトマンによると、賦活睡眠は夢をみている状態だという。

 はじめに述べたように、眠りは本能的欲求であるから、正常な脳であれば必ず眠るようにできている。不眠を訴える人があるが、眠れないのではなく、ねつきのわるい人である。本当
に何日間に一睡もしないということはありえない。従って、眠れないのは、眠る必要がないからであって、眠る必要がおこると必す眠れるのだと、眠りの本質に思いをいたせば、不眠を
気にすることはないはずである。睡眠薬で眠りを買うのは、百害あって一利もないことである。

 私たちは、リズム刺激が眠りを誘うことを知っている。水車小屋の番人の眠り、す守歌で眠る赤ん坊、単調な話をきいているとつい眠くなる。最近、新皮質の皮質下核の視床尾状核
を、低いサイクルで電気刺激をつづけていると、脳波的にも眠りのパタンになるし、また実際に、イヌやネ・は眠ってくることが観察されている。これが、電気睡眠器の原理であって、
さきに述べたリズムで眠る例は、この仕組みによっているのである。