マグンは、感見神経路を上行する感覚のイングルスそのものが。大脳皮質の活動を支えている(賦活)のではなく、網様体から大脳皮質全体へいっている別の神経路が意識の水準を支えているという。すなわち、網様体の恬動か盛んになると、意識の水準があかって目ざめ、網様体の活動が弱まると、意識の水準がさかって眠ってくる。そして、網様体が活動を停止したときが昏睡の状態である。

 ところで、この賦活系の中心である網様体には自動能はなく、感覚神経路からでる側枝を通って流れこむ感覚のイングルスによって、その活動か駆動され、維持されているという。従って、感覚刺激が強いと意識の水準はあがり、刺激が弱いと意識の水準はさがるから、私たちの目ざめと眠りは、感覚刺激の量によって規定されているというわけである。

 実際に、この構想は、私たちの日常の体験にてらしてもよく納得がいくし、動物申人間で、網様体を電気刺激すると、眠っているものは目ざめてき。目ざめているものは、 いっそう意識が明晰になるのである。また、脳波のパタンも、それに対応して眠りから目ざめのパタンに変る。

       さらにマグンは、網様体から大脳皮質へゆく経路に二つあるという。すなわち、視床の中心部の非特殊核群で中継されてゆく経路と、視床腹部から内包を通って広く大脳皮質へゆく、いわゆる視床外経路とである。

 カナダの生理学者ジャスパ、は、視床の非特殊核群から大脳皮質へゆく線維系の働きについて調べ、それを広汎性視床投射系と名づけ、これに意識の仕組みを求めている。なお、大脳皮質と視床との回には、相互の線維連絡によって閉回路ができており、これを反響回路とよんでいるが、おそらく、広汎性視床投射系がそれに関係しているのであろう。

 ところで、マグンの網様体賦活系と、ジャスパ、の広汎性視床投射系との関係はどうか。網様体賦活系のうちの視床の非特殊核群を通る経路で、視床で中継されてから大脳皮質へゆく経路が、広汎性視床投射系にあたると考えてょい。従って、広汎性視床投射系は、網様体賦活系のなかに包含されるわけである。

 網様体賦活系の二つの経路は、働きのうえに違いがあるだろうか。まだ、実験的にはっきりたしかめられてはいないが、それぞれの経路を刺激してあらわれる、賦活効果の違いから想定して、視床を通らない経路は、大脳皮質全体に対して、持続的な賦活効果をおよぼして大脳皮質の活動水準を全面的に統御している。これに対して、視床で中継されて、ジャスパ、の広汎性視床投射系を含む経路は、視床の中継核から大脳皮質へゆく感覚のイングルスを、変調、調整、配分して、大脳皮質に局所的に働きかけて、注意の集中や慣れの現象の仕組みなどを支えていると考えてょかろう。

 ペンフィールドは、中心脳系なる概念を提唱し、あらゆる精神活動は、大脳皮質と脳幹にある中心脳系との相互作用によって行なわれているという。彼のいう中心脳系の実体は明確でないが、網様体賦活系の構想のなかに包含されてょいであろう。

 なお、マグンは、大脳皮質から、逆に網様体に働きかける神経路を考えている。私たちの意識の水準はある程度、意志によって統御できるが、その仕組みをこの神経路に求めている。

 網様体は、たくさんのシナプスによって複雑に連絡しているネフロンの連鎖であるから、薬物の影響をうけやすい。網様体に麻酔薬や興奮薬の作用点が考えられているゆえんである。

      ところで、マグンの構想に対して反対がないわけではない。その代表者は、アメリカの脳生理学者ゲルホルンである。彼は、賦活の中心を網様体の代りに視床下部に求めている。すなわち、視床下部は、ここに流れこんだ感覚のインプルスによって駆動され、そこから大脳皮質へ直接に、あるいは視床を介してゆく神経路を介して。大脳皮質を賦活しているというのである。

 この二つの主張は、どちらも実験的には正しい。それにもかかわらず、なぜ見解が違うのであろうか。私たちは、この見解の違いを調整するために、賦活の対象に大脳辺縁系を導入し、 この新しい立場にたって、マグンとゲルホルンの構想の違いを説明し、意見の対立を解消することができたのである。

 新皮質と大脳辺縁系の旧皮質、古皮質の脳波を目安にして、網様体視床下部の刺激による 賦活効果を調べてみると、網様体の刺激は、主として新皮質に対して強い賦活をおこし、視床下部の刺激は、むしろ、旧皮質、古皮質に強い賦活をおこす。さらにまた、視床下部の前部は旧皮質に、後部は古皮質に、それぞれ賦活をお上ぼしている。

 従って。新、旧、古の大脳皮質は、それぞれ別の賦活系によって賦活されているということになり、視床下部を賦活の中心にする賦活系を、網様体賦活系に対して、視床下部賦活系とよんでいる。

 ここで当然考えられることは、網様体視床下部を駆動する感覚のイングルスの違いである。調べてみると、網様体には、主として、視覚や聴覚のような判別性感覚のインプルスが駆動し、視床下部には、内臓感覚や痛覚などの原始感覚のイン70ルスが駆動している。この関係は、新皮質や大脳辺縁系で営まれる精神活動とよく対応しているので、きわめて合理的な賦活の仕組みといえよう。