ジントニックのなぞ

 

 パイントの半分の量はa half pint、あるいはただa halfともいう。一般にhalf (半分)の複数はhalvesであるが、半パイントの複数はhalfsとなり、

  A pint and two 加俸、please.

  Oパイントと半パイント2杯お願いします)のように注文することになる。

 これは飲み物に独特の複数形であるが、ほかに問題となるものにgin and tonic (ジントユック)がある。2つの名詞と接続詞で構成される複合語であるのてへ最後に複数の標識-sをつけてgin and tonics となるのではと予想される。なるほど、実例をさがしてみると、

(1) All she was certain of was that Wendy had not fallen in love with Graham, and given two or three gin and tonics and a French dinner and a cherry brandy at the roadhouse…

    (彼女が少なくとも確信していたのは、ウェンディーはグレアムと恋に落ちたのではないということであり、郊外のレストランで2,3杯のジントニックとフランス料理、それにチリー・プランティーをごちそうになったので………)

    (キングズリー・エイミス『きみのような娘と行こう』)


 考えてみれば、ジントニックの重要な成分がginであるところから、ginを複数にしてgins and tonic、gins-and-tonicとする構成法も理にかなっている。

 以上まとめて順列組み合わせを考えると、

gin and tonics

gins and tonic

gins and tonics

gin-and-tonics

gins-and-tonic

gins-and-tonics

の6通りがある。辞書や文法書を開いてもこれら異なる複数表現の説明はないが、ここで1つとっておきの例をご紹介したい。

 出典はコリン・デクスターのミステリー『ウッドストック行き最終バス』である。デクスターは大学都市オックスフォードを舞台にした推理小説家で、現在もっとも注目されている作家の1人。斬新なプロット、生きたせりふ、練りあげられた文体、そして魅力あふれるモース警部など、再読するにたる優れたミステリー作家である。 BBCテレビのシリーズは英米ともに大好評を博している。モースを演ずるのは『スウィーニー』で日本でもおなじみのジョン・ソー。そのうち日本でも公開されるのではないだろうか。

『英語表現を磨く』豊田昌倫著より