ダウン症候群

 

 幼稚園・保育園児の中にもかならずといっていいほど、ダウン症候群の子どもがいます。両方の目が離れていて、鼻が低く丸顔の独特な風貌で、ぽちゃぽちゃとした体つきで、にこにこ笑っている愛嬌のある子どもです。ダウン症候群は、染色体の異常一21番目の染色体が過剰に存在する(3個ある)-に起因する病気です。一般的には特徴的な顔つきで、一見してダウン症候群の子どもであるということがわかります。眼の内側には皮膚が多くかぶさっており、両方の目の開か開いているかのように見え、眼裂は斜めにつり上がり、鼻根部が扁平であったり、舌が大きがったり、また手指が短くて太いこともあります。ダウン症候群の出生率は、約仁000人に1人といわれています(飯沼、 1996a)。

 ダウン症候群の子どもの特徴を考えますと、大きく分けて次の3つがあげられます。①運動面の遅れ、②知的障害、③身体合併症の3つです。

 第1は、筋肉の緊張度が低いことです。首のすわり、寝返り、お座りなどが、1~2か月から半年近く遅れることが多く、一人歩きも半年以上遅れたりします。最近では早期療育が普及して、1筬8か月ぐらいで歩けるようにもなっています(安藤、 1991)。また、身体中の関節が柔らかいのが特徴です。歩き始める前のハイハイの時期は膝の屈伸を嫌がり、膝の関節を伸ばしたままのいわゆる「高這(タカバ)い]をします。幼少時には腰が曲がっている姿勢が目だち、グニャリとしている、歩き方がおかしい、あるいは走ったりジャンプしたりするのがむずかしかったりします。また、微細運動の面でも遅れがあり、物をつかむ手指の動作が、健常児では生後で可能なところ、ダウン症候群の子どもでは、1歳4か月ぐらいになってやっとしっかりとつまめるようになったりします。

 以上の特徴があるため、早期の療育的なアプロー千としては、粗大運動や微細な運動(目と手の協応動作など)のトレーニングが必要です。一般にダウン症候群の子どもは、膝などの関節に負担がかかるような運動を避ける傾向がありますので、幼稚園・保育園でも軽いジャンプ運動や縄跳びなども相当年齢が進んでからでないと、できなかったり、したがらなかったりします。

 第2に程度の差はありますが、知的な発達の遅れが存在します。ことばの発達を例にとりますと、ダウン症候群児の始語の時期は、2歳半すぎと考えられていましたが、最近は早期からの介人により、平均1歳6か月ぐらいでことばを話し始めるともいわれています。このように教育環境の条件により知的な発達は変わってきますし、個人差もあります。ですから、ことばがない時期にも本人との心の通ったやりとりをしっかりもっていくことが大切です。知能は、通常の知能検査では低い数値であって仏絵を使った知能テストでは、IQ値が高くなることもあります(飯沼、 1996c)。

 人の気持ちを察したり、状況に合わせて適切に行動したりする能力も見かけの知能以上に高いようです。ダウン症の子どもは、ことばで正確に表現できなくとも、その場にあった合理的な行動がちゃんととれることが多いものです。こういった特徴が自閉症の子どもとは大きく異なる点です。

 また、「どもり」も約半数のダウン症候群の子どもに認められますが、これはしゃべるときに何を言えばよいか迷ってしまうせいかもしれません。そして発音の不明瞭さも約才分の3のダウン症候群の子どもに認められます。これは、舌が大きいことや、声帯の緊張度々共鳴の異常が原因と考えられています。ことばの発音や音声の問題は、必要に応じて言語聴覚士(言語訓練をする専門家)の先生かちと連絡を取り合って治療を進めるのがよいと思います(安藤、エ991)。

 第3の特徴としては、さまざまな先天的な奇形や疾患を合併している(飯沼、1996b)ことが多いということです。一人の子どもにいくっかの奇形が合併することもあります。よく認められるのが、心臓の奇形です。約40%ぐらいのダウン症候群の赤ちゃんに心奇形が認められます。次にてんかんですが、乳幼児期には1~2%にてんかん発作が起き、50歳代になると%にもなります。このてんかんはきちんと治療をすることによって治りやすいのが特徴です。先天性の白内障が小学生の段階で、 10%くらいありますが、たいていは中心視野からはずれた小さなものなので多くは手術の必要はありません。また、首関節が不安定である子どもが15%くらいいるといわれています。もしも握力の低下や手足に力が入らないとか皮膚の感覚が鈍くなったりすれば、首の骨かすれて神経が圧迫されている可能性があります。3~4歳ころに首のレントゲン検査を行い頚椎脱臼(首の骨の1番目と2番目が少しずれている)の有無を調べた方がよいようです。また、これは奇形ではありませんが、鼻かぜをひいたときなど中耳炎を起こしやすく、注意が必要です。これらの合併症を生じやすいため、子どもによっては、ダウン症候群専門の小児科、あるいは整形外科、耳鼻科、眼科などのお医者さんに定期的に診てもらい、健康管理をすることが必要です。

 もう一つの大事なポイントは、ダウン症候群の場合は、生まれてすぐにその子どもがダウン症候群であるという事実を両親が告知されることです。告知を受けたとたんに多くの親たちは、ショックを受け悲しみや怒りの感情をもってしまいます。時には「絶望のどん底に突き落とされたようで、子どもといっしょに死のうかと思った」と後に筆者に語ってくれた保護者にも会います。孑どもをしっかりと受け入れて育てていこうと思うようになるのには相当な時間がかかると思いますが、育つ道筋をしっかり示し希望につなけ。育児の楽しさを実際に感じていくことが必要です。そのためにも、早期療育にすみやかにつなげて、より適切な療育支援をまわりがしていくことが重要です。

 保育園や幼稚園の中では、ダウン症候群の子どもは愛嬌があり、人なつこいので、人気者であったりします。しかし知的な遅れから善悪の判断や物事の理解が困難なことも多いので、きめ細かく対応して教えていくことが大切です。自分がしたことが悪いことであっても、叱られている理由がよくわからず、にこにこして笑い、つい保育者がほほえんでしまって、きちんと教えることができないこともあります。人の心をつかんでいくことがうまいという天性をもっている上回乳幼児期より心疾患の手術で人退院を繰り返していたりするので親としては「かわいそう」という思いが先にたち、結果として、甘やかされて育てられている子どもが多いような印象を筆者は受けています。また、どうしても自分の思いや要求を通すようながんこさもその性格の中にもっていることが多いので、保育の場面でよ他の障害これらの障害については後述)をもつ子どもたちの「困った行動」とは違った[保育のしにくさ]を感じてしまいがちです。保育者たちは焦らず、感情的にならず、一つずっていねいに教えて指導していくことが肝要です。

『保育に生かす心理臨床』より