脳の構造

 

 私たちの身体のうちで、脳ほど傷つかないように厳重に保護されているものはない。三重の脳膜(硬膜、クモ膜、柔膜)で包まれている。柔膜は、脳の表面にぴったりくっつき、その
外側のクモ膜との隙間は、髄液で満たされていて、外からの衝撃が脳へ強くひびかないようになっている。クモ膜の外をしっかりした硬膜が包んでいる。      ゛

 まず、大脳と小脳に区別される。人間では、小脳は脳全体の重さの一一何で、主な働きは運動の調節であるから、精神の働きには、直接に関係していない。

 大脳は、左右一対の半球状の塊りと、これをもとでつないで、脊髄と連絡する棒状の脳幹という部分からできているひ脳幹は、間脳、中脳、橋、延髄の総称であって、横からは、下の
方が小脳の下にわずかにみえている。

 大脳半球の表面には、たくさんの溝がある。溝にかこまれた部分を、大脳回転という。

 そのうちで、特に大きい溝は、外側面のほぼ中央を、上から下に走る中心溝(ロ、フンド溝)と、前下方から後方に走る外側溝(シルヴィウス溝)である。便宜上、前頭葉、頭頂葉
後頭葉、側頭葉に区別されている。一番広いのは前頭葉で、全体の四一%、ついで頭頂葉と側頭葉は共にニ、%、後頭葉は一七万である。なお、外側溝の奥底に、島という場所がかくさ
れている。

 両半球の間の割れ目に沿って縦に切ってみる。大脳半球の内側面にも、たくさんの溝があるが、鳥距溝という深い溝が、後下方部を横に走っている。

 脳梁とかいてある部分は、両半球をつなぐ神経線維の束の切断面であって、人間の脳では、特によく発達している。脳梁をとりかこんだ領域は、。ブロ、カが大辺縁葉と名づけた場所
で、現在は、中間皮質とヤフ名前で、大脳辺縁系の一部になっている。

 次に、半球を水平に切ってみると、表面が灰白質の層でぶちどられている。灰色にみえるのは、神経細胞の集団であって、灰白質または大脳皮質という。灰白質の内部は白色で、神経
線維の束であって、白質または髄質という。この両者をあわせて、外套とよんでいる。

 髄質のなかに、灰白質の神経細胞の塊り(核)が埋れている。これを、大脳核(基底核)という。

 大脳核は、尾状核レンズ核前障の三つに分れている。レンズ核は、さらに、外側の被殻と内側の淡蒼球に分れている。被殻の神経細胞の形、大きさ、排列が、尾状核と同じなので
被殻尾状核を一緒にして線条体という。

 これらの核は、運動の発現に関係しており、尾状核レンズ核は、大脳皮質の運動を司る領域と線維連絡がある。また、脳幹で、運動に関係のある赤核黒質などへ線維を送っている

 このほかに、旧皮質と関係の深い扁桃核と、古皮質と関係の深い中隔核がある。扁桃核は、脳の底面で、鈎という場所の内側にあって、数個の核の集りである。中隔核は、透明中隔と
いう場所の下方の内側にある。扁桃核と中隔核は、視床下部を通って、中脳へ神経線維を送っている。大脳辺縁系の皮質下核であって、本能的欲求の発現や自律神経系の統御に関係して
いる。

 なお、外套と大脳核との間に、せまい腔所が左右にあって、側脳室という。


脳幹は、前方から、間脳、中脳、橋、延髄に区分されているが、はっきりした境界はない。

 図底面から脳幹をみて。一番目につくものは大きくふくれあがった橋である。その前方に。せまい中脳があり、さらに前方は、間脳のうちの視床下部にあたる領域であって、ここから
、下垂体が突出している。橋の後方は延髄である。

 脳幹の背面は、小脳でおおわれているためにそのままではみえない。特徴的な構造は、中脳の背面に、四丘体とよばれている前後左右二対の高まり(上丘と下丘)がある。その後方で
、橋と延髄の背面は、小脳との間に、菱形の凹み(菱形窩)がある。ここは、第四脳室の床であって、上は中脳水道という細い管で第三脳室につづき、下は脊髄の中心管にっづ

 中脳には、運動に関係する赤核黒質がある。中脳水道の周囲には、中心灰白質という神経細胞の集団があって、上は、視床視床下部と、下は網様体と連絡している。

 脳からでるす二対の脳神経のうち、旧皮質へはいる嗅神経と、問脳へはいる視神経のはかの十対は、中脳、橋、延髄からでているから、それらの起始核は、これらの部位にあり、小脳
と連絡するための核心橋、延髄にある。また、中脳から延髄にかけて、中央部に、神経細胞と神経線維が網状になった網様体があって、意識を支える仕組みとして、重要な役割をしてい
る。そのほか、呼吸や血管に関係する中枢広)ある。

 中脳の前方の間脳は、たくさんの核の集りであって、背側部の視床上部、視床、腹側部の視床下部視床腹部、後方部の視床後部に区分されている。

 視床上部は、手綱核というふさい核であって、大脳辺縁系の下行路が通っている。

 視床は、たくさんの核からなり、前方、外側、内側、腹側、中心部の核群に区分されている。また、働き方の違いによって、次のようにも区分されている。すなわち、感見神経路を中
継して、大脳皮質の感覚を司る領域へ線維を送る特殊核、網様体からくる線維を中継して、大脳皮質全体へ線維を送る非特殊核、視床のほかの核から線維をうけて、大脳皮質の連合野へ
線維を送る連合核である。

 視床の後方の視床後部は、視覚の感覚神経路を中継する外側膝状体と、聴覚の感覚神経路を中継する内側膝状体である。

 視床下部は、第三脳室の壁と床にあたる小さい部分で、たくさんの核の集りである。働き方の違いで、前部と後部、あるいは内側部と外側部に大きく分けられている。自律神経系の中
枢であると同時に、大脳辺縁系へ出入りする神経の中継場所にもなっている。

 また、下垂体へも線維を送って、下垂体の分泌を統御している。近年、視床下部の一部である視索上核と室旁核の神経細胞のなかにできた分泌物が、神経線維を伝わって下垂体へ運ば
れていることが明らかにされている。これを神経分泌という。

 なお最近、視床下部は、大脳辺縁系の活動を支える中心的存在であると同時に、新皮質の活動に対しても影響を及ぼしていることが証明されている。

 視床腹部は、視床下部の背外側にあり、赤核黒質と連絡して、運動の発現に関係している。

 以上述べたように、脳幹には重要な核が集っているが、そのほかに、脳へ上ってゆく感覚神経や、脳から下ってゆく運動神経の通路になっている。