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脳波の発見

 

 筋肉も神経線維も電気を発生するなら、脳細胞も活動すれば、活動電位をだすに違いない。そう考えて、実験をはじめたのが、イギリスの生理学者ケイトンである。  ケイトンは、
ウサギの脳を露出して、その表面に電極をあて、これを鋭敏な電流計につないでみたとすると、針かぶれ、たしかに電気が発生しているのである。

 そこで、一八七五年に、イギリスの医学会でこの実験を供覧し、さらに、一八八七年にはワシントンの国際医学会で報告したのであるが、当時、この発見は全く相手にされなかった。
ところが、す五年後の一八九〇年に、ポ、ランドの生理学者が、イヌで同じような現象のあることを報告するにおよんで、はじめてケイトンの研究が浮びあがってきたのである。

 しかし、人間の脳から、同じような電位変動を記録することに成功したのは、ずっとおくれて、ドイツの構神科医ベルガ、の数年間にわたる苦心の研究の結果である。ニベルガーは、
脳からでる生物電気が、興奮したり、眠ったりすることによって変化し、また、テッカン患者ではきわめて特徴的な電気をたすことを観察し、一九二九年に、「人間の脳電図につ いて
」という論文を発表したのである。現在、脳がだす生物電気を、脳電図、脳波のほかに、彼の名前をつけて、ベルガ、・リズムとちょんでいる。

 この発表がきっかけになって、その後、イギリスの生理学者エドリアン、脳波学者ウォルタ、(W. G. Walter)アメリカの構神科医ギミフスたちによって、脳波の基礎や臨床
医学への応用について研究が進められ、現在隆盛をきわめている脳波学の基礎が固められたのである。

 脳波の電圧は、一万分の一ボルト以下であるから、ケイトンやベルガ、たちは、記録するのに大変な苦労をしたのであるが、現在では、エレクトロニクスの発達によって、構巧な脳波
計が作られ、簡便に記録できるようになった。

 脳波を記録するには、露出した脳に電極をあてるのが一番好ましいが、人間では、この方法は特別の場合のほかは使えない。そこで、ベルガ、がやったように、頭の皮膚に金属板の電
極をはりつけたり、細い電極針を頭の皮膚にさしこんで導出、記録する方法が使われている。また、病気の診断には、左右対称に、頭の皮膚に八個またはす二個の電極をつけて記録する
のが普通である。

 脳波のパタン 脳の表層の新皮質は、生後発達してくるから、脳波のパタンも、けじめは、低いサイクルの振幅の小さい波であるが、年齢がすすむにつれて、サイクルがまし。振幅も
大きくなって、す五、六歳で大人の脳波のパタンになる。

 脳波のパタンは、精神活動や意識の状態によって敏感に変る。目を閉じて、おちついた構神り違う。物を考えるときに、視覚像を思い浮べるかどうかに関係があるともいわれている。
また、脳波のパタンは、性格や休質に関係があるともいうが、まだはっきりしていない。

 次に、目ざめた状態から眠りにはいると、その経過に対応して、図32のようなパタンの変化がみられる。うつらうつらしてくると、a波がすくなくなって、全体としてひらたいパタン
に。

 このように、脳波のパタンは、意識の水準を客観的に示してくれるから、意識の仕組みや眠りの研究が、脳波の活用によって、非常に進んだわけである。そのうえ、動物でも、同じよ
うな脳波のパタンを示すから、動物による実験が可能になり、この方面の研究が、一層促進されたのである。

 ところが、近年、眠っているにもかかわらず、低振幅速波(β波)のパタンを示す、いわゆる賦活睡眠の現象が発見され、一方では、禅やヨガや催眠術のときの脳波が調べられるよう
にたって、さきに述べたような、意識の水準と脳波パタンとの対応が、いつでも成立するというわけにはいかなくなってきた。

 しかし、ここで注意すべきことは、頭の皮膚にはった電極から記録されるものは、その下三~四センチ以内の新皮質の脳波である。あとで述べるが、私たちの精神は、新皮質のほかに
、旧皮質中古皮質が関係しているから、新皮質の脳波だけで、すべての構神現象が説明できるとはいえないだろう。そこで、旧皮質中古皮質の脳波を、同時に導出、記録する(深部脳波
)必要にせまられてくるわけである。

 この要求は、あとで述べる脳定位固定装置の考案によって、かなえられるようになり、これによって、脳の研究も。さらに新しい局面が展開されてきたのである。