精神薬理学

     脳の研究が、脳波の導入と応用によって非常に推進されたことは、すで述べたところであるが、大脳辺縁系の研究の発展に対する脳波の貢献もまだきわめて大きい。

     ところで、旧皮質率古皮質は、同じように大脳皮質とよばれているが、新皮質との間に、細胞構築学的にみて非常な違いがある。すなわち、旧皮質や古皮質は、未分化、未発
達の状態であるといえる。従って、その脳波のパタンも、新皮質のそれとは当然違っていてよいはずである。 ネコの新皮質と旧皮質と古皮質の脳波を、行動と対応させて記録したもの
である。このうちで非常に特徴的なのは、古皮質の海馬の脳波である。動物が興奮した状態では、海馬 は、数サイクルの規則正しい波をだしている。を目安にして、大脳辺縁系の働き
が調べられるわけであり、さらにまた、新皮質と大脳辺縁系の働き方の相互関係もわかるはずである。

 なお、人間の旧皮質中古皮質の脳波も、動物のそれとほぼ同じパタンを示すように考えられている。

 脳波的にみて、大脳辺縁系の特有な性質は、旧皮質中古皮質に、あるいはその皮質下核に、電気的、機械的、化学的刺激を加えると、たやすく、テンカン発作にみられるような、いわ
ゆる発作波(発作発射)があらわれることである。この異常活動は、新皮質よりずっとおこり中すく、また、大脳辺縁系の領域だけにひろがって、新皮質までひろがらないのが普通であ
る。

 なお、この発作発射は、たとえば血液の滲透圧を高めたり、血液中のブドウ糖(血糖)の量を減少してもおこりやすい。

 興味あることは、大脳辺縁系でみられるこのような発作波は、年齢の小さいものほどおこりにくいということである。ところが、新皮質ではこの関係が逆になっていて、年齢の大きい
ものほどおこりにくい。

 旧皮質と古皮質の発作波が、どんな構神の異常状態に対応するかということについては、はつきりしたことがわかっていないが、おそらく構神運動型テンカンと深い関係をもっている
のであるうと考えられている。

 それではなぜ、旧皮質や古皮質では、このような異常波がおこりやすいのだろうか。発作波は、ネフロンの同期的活動であるから、旧皮質中古皮質のネウフ/は、シ九フスの接着が緊
密なために、たやすく同期的活動をおこすのか、それとも、同期的活動を阻止する抑制の仕組みが、旧皮質と古皮質に乏しいのか、そのどちらかが原因であろう。興味ある問題であって
、将来の研究をまたねばならない。

 近年、精神薬理学という名前のもとで、脳の働きを高めたり低めたり、あるいは狂わせたりする薬物(向精神薬)の作用の仕方が盛んに研究されているべその結果によると、新皮質系
と大脳辺縁系とは、同じ薬物に対しても反応性がかなり違っている。その理由はまだよくわかっていないが、両者に含まれる物質、特に酵素系の違いによるのだろうという推定のもとに
、神経組織の化学的な研究が進められている。そノアミン酸化酵素の脳内分布の研究などはその代表的なものである。